この本を読むことを通して、いしいしんじの原点に触れることができる。これを読むと『ぶらんこ乗り』がなぜ生まれたのかがよくわかる。今思うと貴重な作品集である。だが、独立した作品として読めば、なんだかどこにでもあるちょっと不思議な短編集でしかない。随所にいしいしんじテイストが満載されてあるからファン垂涎のものなのだが。
2000年。『ぶらんこ乗り』と出会った衝撃から9年。今年久々にいしいしんじの近刊である『四とそれ以上の国』を読んでその取りつく島のなさに呆然とした。あれはなんだったのだろうか、と思い、未読だった数冊を続けて読んだ。やはりそこには何とも言えない違和感があった。それを拭い去ることは出来なかった。ちょうど四冊読んだところで、あきらめて彼の原点であるこのデビュー作に戻ることにした。先に『トリツカレ男』を読んだのだが、あれは僕の好きないしいしんじだった。
進化していくいしいしんじの原風景がここにはある。ここにある純粋さが、少しずつ形を変えていくとどうなるのかが、わかった気がした。抽象度をどんどん高めていくことで混迷していく過程がはっきりと見えた気がした。最初の頃に完成されたイメージをきちんと裏切っていきながら成長していく途上に今の彼がいるのだなぁ、と思った。
06年の長編『ポーの話』が決して気分のいい小説にはならなかったところにも彼の目指す方向性がしっかり刻まれている気がした。『トリツカレ男』を原点にして、『ぶらんこ乗り』で頂点を極めてしまったいしいワールドは、その再生産でしかない『プラネタリウムのふたご』を経て、迷走という形の進化を遂げる。わかりやすいストーリーラインと落としどころから遠く離れて、心の闇の中で迷子になっていくような作品を作り続ける彼が、これからいったいどこにたどり着くことのなるのか、今後の彼から目が離せないなぁ、と改めて思う。
『東京夜話』に収められた東京というワンダーランドを歩き続けるいしいしんじの中にあった幾つもの風景がきっとこれからの彼の長編を読み解いていく上でのヒントになるのだな、と思う。発表時は『とーきょーいしーあるき』と題されたこの短編連作を『東京夜話』という一つの形にして、再刊行する上での彼の覚悟は、彼が東京という街を離れて、世界の果てへと旅立っていこうとする覚悟でもあったのだと今更ながらに思う。
2000年。『ぶらんこ乗り』と出会った衝撃から9年。今年久々にいしいしんじの近刊である『四とそれ以上の国』を読んでその取りつく島のなさに呆然とした。あれはなんだったのだろうか、と思い、未読だった数冊を続けて読んだ。やはりそこには何とも言えない違和感があった。それを拭い去ることは出来なかった。ちょうど四冊読んだところで、あきらめて彼の原点であるこのデビュー作に戻ることにした。先に『トリツカレ男』を読んだのだが、あれは僕の好きないしいしんじだった。
進化していくいしいしんじの原風景がここにはある。ここにある純粋さが、少しずつ形を変えていくとどうなるのかが、わかった気がした。抽象度をどんどん高めていくことで混迷していく過程がはっきりと見えた気がした。最初の頃に完成されたイメージをきちんと裏切っていきながら成長していく途上に今の彼がいるのだなぁ、と思った。
06年の長編『ポーの話』が決して気分のいい小説にはならなかったところにも彼の目指す方向性がしっかり刻まれている気がした。『トリツカレ男』を原点にして、『ぶらんこ乗り』で頂点を極めてしまったいしいワールドは、その再生産でしかない『プラネタリウムのふたご』を経て、迷走という形の進化を遂げる。わかりやすいストーリーラインと落としどころから遠く離れて、心の闇の中で迷子になっていくような作品を作り続ける彼が、これからいったいどこにたどり着くことのなるのか、今後の彼から目が離せないなぁ、と改めて思う。
『東京夜話』に収められた東京というワンダーランドを歩き続けるいしいしんじの中にあった幾つもの風景がきっとこれからの彼の長編を読み解いていく上でのヒントになるのだな、と思う。発表時は『とーきょーいしーあるき』と題されたこの短編連作を『東京夜話』という一つの形にして、再刊行する上での彼の覚悟は、彼が東京という街を離れて、世界の果てへと旅立っていこうとする覚悟でもあったのだと今更ながらに思う。