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映画・演劇のレビュー

『レイチェルの結婚』

2010-03-20 23:00:07 | 映画
 久々のジョナサン・デミである。あの『羊たちの沈黙』の監督の、と言う方がわかりやすいだろう。それくらいにあの1作はインパクトが強い。そしてあれ以降彼の映画はいまいちパンチの効かない映画が多い。ということで、忘れかけていたところに本作が登場した。

 これがまた久々に彼らしい映画になったのがうれしい。インディーズ出身の彼だからこそできる大胆な手持ちカメラ多用のホームムービーのような映像がこのドキュメンタリータッチの文体に合う。これはレイチェルの結婚のために集まった家族、友人たちが繰り広げる群像劇だ。

 主人公は麻薬中毒で施設に入っているレイチェルの妹キム(アン・ハサウェイ)。描かれるのは、彼女が姉の挙式に列席するため一時退院した数日間である。彼女の家族に対するわだかまりがこの式の日々の中で描かれていく。たくさんの人たちの中で、キムは自分の居場所を摑めずイライラする。煙草をスパスパ吸うのもそのせいだ。周囲は腫れ物に触るように、時には彼女を無視したりもしながら、当たり障りのないように接する。

 それがまた彼女にはたまらない。姉を祝福するために集まったたくさんの人たちの中で、孤独がますます募っていく。姉は姉で妹のため今までたくさんの辛酸を舐めてきた。両親も同じだ。やっかい者の妹が晴れの挙式に戻ってきたことは、家族にとってほんとうは好ましいことではない。また何か問題でも起こされたならたまらない、と思っている。

 お互いがそこに距離を作り、表面で穏やかな時間をやり過ごそうとしていることが見え見えなので、せっかく家に帰ったのに、結局キムはいたたまれないままだ。

 結婚前夜、みんながこの家に集まり、ホームパーティーをする。そして迎える結婚式。手作りの本当に素敵な式である。だが、それをいつ感情が爆発するのかと、ハラハラしながら見守ることになる。

 どこの家にでもある様々な個人的な事情。ここで描かれることはなんら特別なことではない。それを淡々と描きながらこんなにもスリリングな映画をさらりと作り上げる。さすがジョナサン・デミだ。

 

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