50代の夫婦とひとり娘。3人の視点から娘の結婚式までの1月から6月までの半年間を描く。
主人公である父は僕より10歳くらい若いから、一世代下になるって、なんだか微妙。初老の夫婦、結婚する娘という配置。でもこれって僕の10年前にあったシチュエーションだ。そう考えたらなんだか面映い。あの頃、近くに住む一人暮らしの(認知症の)母親の介護もしていたから、重なる部分は多い。
寂しい気持ち、嬉しいもある。50代は複雑。娘が結婚して家を出ていく。(大人になってひとり暮らしをしていたけど)結婚相手は大丈夫か。向こうの家族との関係は上手くいきそうか、とか。結婚式を巡る問題もある。父親の視点から描かれる部分がやはり一番身に沁みる。妻の視点、娘の視点からの3つの描写が交互に描かれるけど。
さらに後半まさかの展開になる。娘の結婚式準備を通して家族が壊れていく。さまざまな問題が噴出してきて、結婚も含めてオジャンになっていくのだ。こんな恐ろしい事態になるとは夢にも思わなかった(と思う)。最初は彼らを感情移入しながら暖かく見守っていたが、だんだんそんな余裕はなくなってくる。
結末は書かない。だけどこんな凄い話になるとは夢にも思わなかった。400ページほどの長編を読み終えた時、ため息をついてしまった。ため息はダメだとこの本の主人公が思っていたのに。もちろん彼はずっと妻の前でため息をついてきた。それがこの結末になる。不機嫌な顔とため息。それは相手への甘え。たとえ夫婦だって、そんな甘えはよくない。相手へのリスペクトがない。タイトルの『娘が巣立つ朝』というのは彼女が結婚して家を出て行くことではないことにラストまで読んで気づく。