22歳という時代を圧倒的な臨場感で描く青羽悠の新作長編。京都の大学に入学した僕が過ごす4年間が描かれる。大学に馴染めず、漫然と日々を過ごしていた田辺朔。キューチカでひとりの女の子に出会う。キューチカは旧地下。古ぼけた大学の学生会館の地下。ここはたぶん京大だけど、そんなことはあまり気にしなくていいだろう。ある種の普遍を描く。京都、大学というところだけでいい。大学内のバー、キューチカにあるディアハンツを舞台にして、夷川さんに導かれてそこのマスターになった朔はひとりの女の子を追い求める。その彼女、野宮さんはずっと不在の夷川さんを追い求める。
4年の月日と、ふたりの恋愛が描かれていく。朔と野宮さんは交わらない。センチメンタルで懐古的。40数年前の自分(たち)をそこに重ねてしまう。誰もが経験した大学時代の憂鬱と感傷。あの頃、僕はひとりで毎週一乗寺の京一会館で映画を見ていた。三本立、四本立の日本映画を浴びるように見た。この小説の朔のディアハンツは僕の京一会館と同じだ。
座り心地の悪い暗闇の中で、一日中映画を見ていた。大学には毎日無気力に通いながら。サークルでつまらない小説やシナリオを書いて季刊誌に載せてもらう。入学してすぐミンセイに拉致されてアジトみたいなところに連れて行かれた日から始まった大学生活。あの無意な4年を思い出しながら、この小説を読んだ。
感傷過多で、いささか独りよがりな懐古譚。だけどこんなふうにして、誰もが4年間を過ごし卒業していき、今がある(気がする)。