父親が倒れてしまい、いきなり実家の苺の面倒を見なくてはならなくなったグラフィックデザイナーの長男が、これまで大嫌いで逃げてきた農業と向き合うことになり、連鎖反応で起こった、家族崩壊の危機にも直面し、そこから新しい家族のあり方、自分の生き方を見いだしていく。よくあるハートウォーミングなのだが、読んでいて、目が覚めるような新鮮な感動を受けた。
自分が信じてきたものに対して、疑いを抱き、反対に拒絶してきたものに、活路を見いだす。もちろん、簡単なことではないし、こんなふうにいつもうまくいくはずもない。これをただの甘い小説、と一蹴する人もいるだろう。しかし、その核心部分にあるものは、すべてに通じる可能性であり、そこからしか、何事も始まらないと思う。逃げるのではなく、ちゃんと立ち向かって、大切なものをみつけること。それが大事。
この小説は、高齢化社会をどう生きるのか、を描くお話でもある。さらには、農家の生き残りをかけた戦いでもある。そんないろんなことはすべて、やがてひとつにつながる。