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映画・演劇のレビュー

浪花グランドロマン『風の亡骸』

2008-09-25 20:15:14 | 演劇
 9月のアトリエ公演『メイズ』は今までのNGRとは少しタッチの違う作品で、とても興味深く見た。あれは芝居がきちんと完結していかないまま宙ぶらりんになった作品で、かっての浦部さんはそういう芝居を作らなかったはずだ。(いつもきちんと決着をつけなくては終わらせない。)シンプルだけど、一筋縄ではいかない、というところもよかった。

 あれは象徴としての機械を巡る物語だ。工場で働く女たちは繰り返し繰り返し同じ行動をとる。一つの荷物を三人がぐるぐる回し続ける。単純労働である。ただ同じように相手に手渡し続けるだけ。何ひとつ仕事は進まない。新しい機械が入って仕事は楽になったはずなのに、そうはならない。ルポライターが取材にやって来ることで、何かが動き出す。

 ある種の予感のようなものを描いた小1時間ほどの小さな芝居だ。実はこの作品が今回の大作の第1章である。本作はあの芝居の続編というスタイルをとりつつももちろん独立した大作として成立している。だが、2時間20分2幕構成のこの芝居と『メイズ』をつなぐと3時間の超大作となる。これを3幕3時間半に及ぶ1本の大河ロマンと理解したい。

 ある小さな工場がなくなった。そこで働いていた二人が今ではこの葬儀社で働いている。JUN(細原愛美)はここが乗っ取りに合い合併吸収されていくことに苛立ちを感じる。そんな話を導入部にして壮大なロマンは幕を開ける。

 野外劇としての様々なテクニックを最大限に駆使して、そのくせこれ見よがしなエンタテインメントではなく、きちんとしたドラマを作る。死んでしまった子供の無念が形になる。その子の想念がひとつの形となり、この世に生まれてくる。JUNと隼は表裏一体の存在であり、彼らは生まれてくることの出来なかった風の少年が作り上げた妄想だ。しかし、JUNは確かにこの世に存在し、今ここで起きている事件に関わっていく。それを隼は見えないところで助ける。

 まぁ、単純と言えばとても単純なお話である。この世とあの世の堺を越えることとか、死体から金を作るとか、荒唐無稽な話も含めて実はお話自体はあまり整合性はない。特に後半には破綻もある。しかし、それを主役となった若手の二人を核に据えてベテランたちがフォローしていくというアンサンブルの妙によって今までのNGRにはなかったバランスのいい作品として仕上げたのは見事だ。

 ある種の予感で芝居を引っ張っていくのもいい。こけおどしかもしれないが、ここには骨太のドラマがある。お話のスケールもいたずらに大きい。ラストのお約束の屋台崩しも含めてきちんと無理なく嵌っている。これでは、なんだかあまり褒めてないみたいだが、かなり面白かったし、見た時は興奮したのも事実だ。だが、見てから1週間経った今、何が面白かったのかが、上手く説明できない。

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