大好きだったあのバリー・レヴィンソン監督作品の久々の新作だ。懐かしい。80年代初め2本の映画がほぼ同時に日本で公開された。初期の傑作『ダイナー』『ナチュラル』である。彼のデビュー作と第2作であり最高傑作だ。あの2本があまりに素晴らし過ぎてその後は何を撮ってもイマイチ。一応代表作と言われる『レインマン』(88)『わが心のボルチモア』(90)以降は泣かず飛ばすでもう30年が経った。その間たくさんつまらない映画を撮っているけど、今回は久しぶりに気合いの入った映画となった。これはたぶん遺作になるかもしれない。
実話の映画化で、主人公の息子が書いた父の話。アウシュヴィッツに収監され、生き残るためにナチスの余興であるボクシングをした。彼らはユダヤ人同士を素手で戦わせて楽しむ。負けると死ぬ。生き延びるために仲間を犠牲にして戦った。戦後アメリカに渡ってボクサーになったが、今も戦時中の悪夢からは逃れられない。収容所のシーンはモノクロで、現在のシーンはカラーで描きわけられる。唐突に過去のシーンが挿入されるのも、よくあるパターンだ。
これは真面目な映画だし、確かにいい映画なのだけど、作品自体の完成度は残念だが低い。題材のよさをまるで生かしきれていないのだ。ありきたりの美談になっている。描かれる主人公の痛みが表層的すぎて、感情移入できない。
だからすべてがきれいごとに見えてしまう。だからボクシング映画ではなく、収容所の話でもなく、トラウマに向き合う話でもない。もちろんその全部だが、同時にすべてがパッチワークでリアルではない薄っぺらいものに見える。実話なのに。80年代には一世を風靡した彼だが、あの頃の輝きは今はもうない。