凄い力作だ。石川慶監督の第3作。今回も驚きの作品を見せてくれた。2時間少しの時間が永遠に思えるほど密度が濃い。主人公の135年の生涯が基本、時系列で描かれていく。17歳の彼女(芳根京子)が海で手を伸ばし空を見つめるシーンから始まり、同じ姿で海にたたずむ135歳の彼女(倍賞千恵子)の姿がもう一度ラストでも描かれる。SF映画に分類されるだろうけど、ジャンル映画ではない。これは命の尊厳に挑む作品だ。SF的な設定はただの手段でしかない。
この映画を見ながら、やがて、老人になり、死んでいくこと。そのことを幸せに思う。僕はちゃんと年を取って死にたい。80年くらい元気で生きられたなら十分だと思っている。だから、もうあと20年も生きられない。でも、それでいい。
35歳で老化を止めて、そのままの若さのまま彼女は生きることになる。映画は後半その後の100年間が描かれる。89歳の彼女は老化を受け入れた人たちの暮らす施設で彼らの面倒を見る仕事に就いている。現場の最前線にいたのに、そこから距離を取り一線を退いた。今の彼女は穏やかに老後を過ごしているのだろう。映画はここからモノクロになる。
だが、彼女は幸せではない。永遠の若さなんかいらない。少しずつ、ちゃんと年を取っていきたいと思う。16歳の頃、棄てた息子と再会し、70代になる彼(小林薫)が35歳のままの自分と過ごす。彼が妻の介護をしながら老いを受け入れて生きていくさまを見つめることになる。
これは永遠の命を手に入れた人類の姿がその第1号である彼女を通して描かれる大河ドラマだ。先にも書いたようにSFなのだけど、永遠の命がどう生きるかが描かれるのではない。ちゃんと死ぬ。それは「ちゃんと生きる」ことと同義だ。