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映画・演劇のレビュー

『恋人たち』

2015-12-21 20:11:25 | 映画
橋口亮輔監督が『ぐるりのこと。』からなんと7年振りで新作長編を発表した。2時間20分の大作である。だが、お話は実に小さい。小さすぎるくらいに、小さな映画だ。主人公3人はこれが映画の主役をする人なのか、というくらいに、地味。普通なら映画の中には絶対に登場しないような普通の人たち。オーデションで選んだ無名の新人らしい。そんな彼らが、凄い芝居を見せる。なんでもなく、当たり前に。

彼らを追いかけるこの映画は、まるでドキュメンタリーのようだ。プロの役者たちも脇を固めるけど、彼らもまた自然体で演じる。3人のドラマは別々のドラマで、基本的にはお互いに関わりあわない。ただ、同じ街で住んでいて、どこかで交錯することもないわけではない。すれ違う程度だ。

通り魔に妻を殺された男。彼はもう生きる気力もない。ずっと妻の思い出に引きこもり、犯人を殺したいと思っている。ずっといじけたまま。周囲の人たちは彼を助けて、なんとかして立ち直らせようとするけど、無理。

平凡な主婦。夫は暴力的で無口。姑とはそりが合わない。でも、我慢して生きている。そんな彼女がパート先に来る業者の男と恋に落ちる。そんな風に書けばなんだか、ドラマチックなのだが、そうじゃない。映画は寒々している。彼女のあまり美人じゃない顔立ち。貧弱な裸。そんなすべてがすさまじいリアリティを醸し出す。

ゲイの弁護士。鼻持ちならない男で、そんな彼が足を骨折する。親友が病院を訪ねてくる。彼は結婚していて、子供もいる。だが、彼は昔からずっとその友達が好きだった。その気持ちを押し殺してただの親友として今まで付き合ってきた。同性愛者への偏見なんかない、という。カミングアウトもしている。だが、果たしてそうか。

こんなにも暗くて、嫌な話を、ここまで延々と見せられて、なのに、スクリーンから目は離せないし、凄まじい緊張感を強いられる。そこにある目を背けたくなるような現実。露悪的に描くこともできる。そういう側面もある。しかし、この静かな映画は、ただそんな彼らの毎日を直視する。僕たちも同じように直視するばかりだ。どこにたどりつき、どういう結末を迎えるか、なんてどうでもいい。ただ、ずっとこの映画を見てしまう。痛い描写のオンパレードで、どうして僕はこんな映画をわざわざ劇場まで来て見ているのか、と思うほど。それほどに凄いのだ。ぞくっとくるようなリアリティのある描写の連続で、これこそが映画だ、と思わされる。しかも、何度となく泣きそうにさせられる。(痛すぎて泣けないけど)今年一番の傑作であることは誰もが認めるはずで、きっとキネマ旬報とかのベストワンに輝くはずだ。まぁ、そんなこと、どうでもいい。今、橋口監督の新作をこうして見ることができた幸せを噛みしめる。映画は凄い。改めて思う。

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