これは実話をモデルにした「スポーツもの」である。テニス界のレジェンドでもある姉妹と、その指導にあたった父親(ウィル・スミス)を主人公にしたよくある感動のスポーツ秘話、なのなら、あまり食指はそそられない。しかも、2時間半もの長尺である。彼らがどういうふうにしてテニス界の頂点にたどり着いたのか、とか、どうでもいい。もちろんそんな映画ではなかった。
この映画が面白いのは、そういう定型とは一線を画したお話の展開を見せるところだ。父親の指導方針が正しいとは誰も思わないだろうけど、でも、凄いことは確かだ。今までこういうアプローチはなかっただろう。しかもこれは実話である。驚きだ。成功したからこうして映画にもなるのだろうけど、こんな方法で成功するなんてありえない。彼は何よりまず家族を大事にしている。そして黒人であることの悲劇、差別を十分に理解(当たり前だ。これまで酷い想いを何度となくしてきたのだから)した上で、みんなの幸せのために戦う。
彼は自分でテニスをするわけではなく素人だけど、ありとあらゆることを調べ上げ、研究して、成功のテキストを作り上げたうえでその実践を図る。スパルタ教育でテニスだけに特化したエリートを育てるのではなく、テニスよりもまず、勉強を大事にして、家族も大事にして、みんなで楽しむことも大切にする。試合に勝つことではなく、それどころか映画の後半では試合には出さない方針で教育を進めることが描かれるのだ。そんな「スポーツもの」の映画なんて見たことない。
ラストはやはり試合のシーンにはなる。そこでのお話に手に汗握る、とかいう人もいるだろう。これはパターンとしては『ロッキー』なのだけど、そこから受け取る感触はまるで違うものになっている。あんなふうに熱苦しくはならないのだ。だいたい、あそこで終わるなんて夢にも思わなかったから驚いた。確かにもうその頃には2時間半くらい見ていたのだろう。だけど、まだまだ見れるくらいに面白いし、そこまではあっという間の出来事だった。だからもっとその先も見せて欲しかった。予備知識はほとんどなく見たから、あそこで終わるなんて驚きだし、その衝撃は大きい。実に上手い終わらせ方だ。客観的に見たなら、この先の話はもう映画として見せる意味を持たないのだろう。
予定されていた練習をやめさせて、みんなでディズニーランドに行く、なんていう展開はこの手の映画としては空前絶後だろう。ありえない。よくある予想を堂々と裏切る展開に快哉を叫ぶ。痛快な映画だった。しかも、何度も言うように実話。凄い。