いつもの岡本作品とはかなりタッチが変わって、そこには少し戸惑う。スタイリッシュで才気走る岡本作品に対して、今回の湯浅作品はなんだかぽわーんとしていて、なま暖かくて緩い。でも、この湯浅崇、作、演出(もちろん主演)のテノヒラサイズ最新作はそれでもテノヒラサイズなのだと思える湯浅さんはこの集団のよさを十分に熟知したうえで、自分のスタイルを立ち上げたからだ。
植物状態の娘と、彼女を見守る父親の想い。彼女のほんとうの父親を巡るお話が、刑務所の囚人たちのお話から立ち上げられていく。新しく囚人部屋にやってきた男の話。よくあるパターン。牢名主のような男と同室の囚人たちとのやり取りから始まる。あまりにのんびりした展開に少し眠くなってしまった。それくらい緊張感がない。今、彼が置かれた状況がどこにあるのか、よくわからないのに、そこにサスペンスは生じない。まぁ、いいかぁ、と思ってしまう。
徐々に構はが見えてはくるのだけれど、テーマに向けて求心力もなく、作品は加速していくこともない。ふわっとしたのんびりしたタッチは変わらない。それが湯浅さんのスタイル、というより人柄なのだろう。彼のキャラクターがそのまま作品に反映されている。才気走ることなく、丁寧に優しく包み込むように人間を描き、そこから作品世界を形作っていく。ささやかで小さな世界を大事にする。これはそんな作品だった。