映画『死刑に至る病』の原作者による最新作。これもまたエグイ。グロテスクな猟奇殺人を描く。内臓を取り出してぐちょぐちょにして寝転がるとか、想像するだけでえずく。この猟奇殺人犯と聖母のような女教師(って、どんなやつだ!)を主人公にして、お話が展開していく。犯人の新しい標的はもちろんその女教師だ。犯人を追い詰めていく警察や、彼女を巡るドラマが交錯して描かれる。犯人と教師の接点からお話はどう展開していくか。なんらかの事件に巻き込まれて、一時は教師を辞めていた彼女が復職し,教檀に立つが、受け持った2年生のクラスの不登校の女の子の母親が猟奇殺人犯に殺される。
彼女が赴任した中学で14年前起きた事件。校内で殺された女教師が彼女と瓜二つで、やがて、彼女も同じように殺されるのではないか、というサスペンスでお話は引っ張られていく。その教師も彼女と同じ無性愛者(アセクシャル)だったかもしれない、とそこから映画は彼女の性癖を軸にして新しい展開を見せていく。夫との関係、母親との確執。アセンシャルであることを周囲には隠していたこと。そこから生じるドラマは確かにこのお話に奥行きを与える。
400ページ越えの長編だが、一気に読ませる。ただ終盤の展開が少し甘い。ラストで犯人と彼女とが対決するわけではないのも弱い。犯人の異常さが後半になるとだんだん薄まるのも問題だろう。これでは怖くない。映画『死刑に至る病』の猟奇犯人阿部サダヲの終始不気味なまま最後まで突入すること較べると、本作の八木沼はまだまとも。しかも、14年前の事件の真犯人が実は、とか、なんだかお話がつまらない方向に落ち着いていくのもまずい。エンタメとして確かに面白く読ませるけど、それだけ。
せっかくの設定の面白さが安易なところに落ち着き、がっかりした。彼女の性癖を巡るお話は面白いし、14年前殺された教師との類似から彼女がなぜ殺されたのかへと迫る部分はスリリングなのに、殺人のほうがおざなりで、残念だ。