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映画・演劇のレビュー

DRY BONES『いちご大福姫』

2012-04-25 21:12:19 | 演劇
 白いシャツに原色のリボンといういでたちが可愛い。そういう簡単なコスチュームで、子供たちの(大学生だけど)清潔感が強調される。めちゃくちゃな話も、ぐちゃぐちゃになるタイプではなく、とてもスタイリッシュで、テンポのよさと相俟って、とても心地よい。学生たちの(劇団員だけど)素直さをそのまま生かして芝居を作った。だが、後半の2本は竹内さんの好みが少し前面に出ているのではないか。そこにある停滞感や、アンニュイとした空気が前半とはまるで違う。

6話からなる短編連作のスタイルで、「いちご大福姫」をキーワードにしたドラマを見せる。前半の4作品は、テンポもよくて楽しい。だが、後半の2本は重い。水沼健による最後の作品は特に。若い作者たちとは異質なタッチになるのは、彼だけ特別なのだから、それはそれでいい。学生運動を題材にして、その中での恋愛を描く。重くて暗くてバカバカしい。でも、作品は面白い。悪くはないのだが、正直いうと、全体のバランスを著しく欠く。でもこのアンバラスを敢えて、ものともせずに見せるのがいい。竹内銃一郎氏は自由自在だ。

 いじめの話や、結婚、母の家出、ほか。そんなこんなの身近な話題を題材にして、それぞれが「いちご大福」というキーワードを巧みに織り込んで見せる。テンポもいい。最初のエピソードはなんと武田操美が主演する。彼女が、いじめっこではなくいじめられっこを演じるのだ。まぁ、どちらをしても彼女なら問題ない。ただのいじめの話なんかにはならない。台本自体がただのいじめの話であろうとも、彼女の存在感だけで、そんな次元は軽々と通り越していく。20歳前後の他の若いキャストの中に混ざっても、まるで違和感がない。年齢差なんかまるでものともしない。きちんと嵌るし、きちんと飛び抜けている。しかもわざとらしくはならない。屈折した心情を見事に表現する。さすが怪物女優だ。もちろんこの作品は彼女の一人舞台ではない。麦芽ちゃんを演じた佐藤愛子も堂々としていてよかったし、天敵、後藤翔子を演じた桂春日も憎憎しげな敵役を余裕を見せながら演じる。台本は匿名劇壇の福谷圭祐だ。つまらないはずがない。この1本目が飛び抜けている。その後の作品はこのレベルがものさしになるから分が悪い。でも、どの作品もねらいが面白く、的を射ていて、悪くはない。こういう軽やかなハイレベルの短編集を見せられると、なんだかとてもうれしい。

 母親がひきこもる話も、あんこがはみ出るとかいう、よくわからない話も、婚約者のへんてこな家族も、どれもこれも突拍子もない。でも、そんなこんなのシュールさが笑える。勢いがあるのがいい。竹内さんはへんな理屈をつけずに、そのまま見せてくれる。仕切り直し後の一人芝居も、とてもいい。どんよりした気分をちゃんと見せるのがいい。

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