ウイング再演大博覧會の3作品目。初演のアイホールからウイングフィールドに劇場が変わり、台本もかなりの改変がある。当然だろう。時が経ち、人も劇場のサイズも変わったことは大きい。新しい『かえりみちの木』は前回とは違う。
舞台中央にあった大木は,今回は上手になる。しかも舞台上で見えているのは(舞台に可視化するのは)全体の4分の1だけだ。しかも、地上から数メートル。彼らが見ている神木の全体はこのウイングの空間からはみ出す。それを見つめながら芝居が展開する。ウイングだから、役者は客席から近い。中村ケンシは使い慣れたこの劇場空間を見事に使いこなす。空間に高さがないから天井の先に広がる木を見る(幻視する)。アクティング・エリアの外、客席にも芝居は広がる。
結果的に、初演から遙かに進化した大きな作品に仕上がっている。若いキャスト陣もよく頑張った。特に主人公を演じたmaaが素晴らしい。彼女を迎えいれるここの人たちを演じたベテラン石塚博章を中心にした面々もいい。
樹齢1000年とも言われる老大木、ケアキの巨木。彼らはその木の前にやって来て見上げる。語り合う。統合失調症の青年を演じた柴垣啓介がmaaと共にキーマンとなり、芝居をリードする。
主人公はバイクでツーリングする非日常の中で出会う。ここで暮らす人たちの日常と接して、ここで過ごす。資料館の管理人、施設のスタッフ、入所者。天然酵母のパン屋。さまざまな人たちかここにやって来て見上げる。自分たちの心の闇と巨木を通して向き合うこのドラマは爽やかで心地よい。