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映画・演劇のレビュー

『人生の特等席』

2012-12-05 20:44:45 | 映画
 役者は引退したはずのイーストウッドが4年振りで復帰した作品。やっぱり役者はやめられないのだろうか。これが特別な作品であるわけではないだけに、そう思うしかない。でも、彼には自分がやりたいと思える企画があればこれからもどんどんやってもらいたい。やっぱりイーストウッドはカッコイイ。こんなやわな映画に出ても許せる。というか、この突っ込みどころ満載の映画で、それでも泣かせるのは、このパターンでしかない安易な話を彼の存在感で見せきるからだ。やはりイーストウッドは凄い。

 娘との和解がお話の核心部分を担う。失明の危機、あと3カ月でクビ宣言、そんな中、それでもノーテンキに球場に通う。スカウトとしての仕事に邁進する。娘はそんな父親と寄り添う。大事な仕事をなげうって、である。

 先日見た高倉健さんの『あなたへ』で感じたような違和感はここにはない。同じように80代の老人なのだが、建さんには限界を感じてしまったが、今回のイーストウッドには、まだまだ可能性を感じた。それは彼には悲壮感がないからだろうか。余裕のようなものすら感じる。無理している建さんと自然体のイーストウッド。その差か。(もちろんそれは建さんがよくない、というのではない。建さんには建さんのやり方があり、イーストウッドのそれとは違うというだけの話なのだ。)

 さて、この映画である。昔ながらのイーストウッドの軽みが、いい方向で出ている。渋い老人なのだ。自分の老いと向き合いながらも、そこには無理がない。死ぬまでスカウトとしての仕事を全うする、とか、そんなのじゃない。好きだから、今もやる。ただそれだけだ。年老いているがよぼよぼではない。ちゃんと現役だ。野球が好きで、スカウトとしての自分の目を信じている。歳は取っても、プライドは失わない。娘に心配は掛けるけど、彼女に頼るのではなく、ちゃんと自立している。できることなら、こんな老人になりたい、と思わせる。それくらいにかっこいい。

 『魔法にかけられて』のお姫さま、エミリー・アダムスが娘を演じる。30代のキャリアウーマンで、父親が大好きなのだけど、幼いころに父に見棄てられたと思っている。だから、今までは彼と距離を取って来た。ファザコンなのだが、認めたくはない。自分を見棄てた父を見返したと思っている。そんな女性を、ただ綺麗なだけではなく、ちょっとくたびれた女として、演じる。『魔法にかけられて』であんなに綺麗だった彼女が、こんな役を演じれるなんて、それだけでなんだか不思議な気分だ。

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