この手のスポコン映画はもういいや、と思って最近は敬遠していたのだけれど、たまたま見たら、とてもよかった。三木康一郎監督は当たりはずれがあるからけっこうギャンブルなのだけど、これはあたり。ちなみに大吉(代表作?)は『植物図鑑』で、最凶(ハズレ)は『リベンジgirl』だ。
これは、ほとんどのシーンが自転車を走らせている場面だけ、というとんでもない映画。だけど、それだけですべてを語り尽くせるというのがいい。ダラダラしたつまらない説明は不要だ。しかも、それだけで満足させてくれるくらいにわかりやすい。単純だからだ、けれど、それでいい。大切なものはすべてそこにある。
高校生になったふたりの男の子の出会いから始まり、自転車競技部に入部してインターハイを目指す、とただそれだけの映画なのだけど、それ以上のものは何もいらない。勉強や恋や、そんなのはこの映画は描かない。ひたすら自転車を漕ぐだけ。しかも最初はママチャリだし。
確か何度かアニメ版の映画を見たこともある気がするけど、そこから抱いていた先入観を払拭する映画だった。マンガもTVアニメも見たことはなかったので、へんな思い入れもないから、新鮮だったのかもしれない。
暑苦しい映画にはなっていないのがいい。それどころかなんだかとても爽やか。きれいな自然のなか軽快に自転車を走らせる。最後のインターハイ千葉予選のシーンも手に汗握るというのではなく、なんだかとてもほのぼのしている。がむしゃらに勝つことだけを追い求めるのではなく、この瞬間を楽しもうとしているのがいい。友だちができてうれしい、仲間と一緒に走るのは楽しい、それだけ。
主人公の永瀬廉が演じる「運動が苦手で友達がいないアニメ好きの高校生・小野田坂道」というキャラクターがいい。わざとらしくなりそうな役なのにそうはならなかったのが成功の理由だろう。オドオドしている姿が嘘くさくなく自然だった。彼と向き合う伊藤健太郎との対比も効果的だ。シンプルで美しい。これは絵に描いたような青春映画だ。でも、青春の本質をちゃんと描けているから信じられる。そんな作品だと思う。