なんとも切ないタイトルではないか。もうそれだけでこの映画の全貌が伝わる。ぬいぐるみたちが少年と過ごす日々を描く、冒頭の数分間がまた素晴らしい。プーさんの世界をちゃんとおさらいし森の中で暮らしている姿を描く。そしてクリストファー・ロビンがロンドンに行くまで。そんな黄金の日々がタイトルバックで描かれた後、映画は本題に入る。
大人になった彼が子供の頃を忘れて生きる毎日のスケッチ。そこにプーさんが現れるという予想通りの展開。映画はその後も想像の範疇から一歩も出ない。だけどこれはこれで構わない。ただ、お話の展開が少し甘すぎるから、途中いささか退屈する。ここには毒がない。でも、これはハチミツのように甘い映画なのだ、と覚悟して見ればいい。ディズニーらしい大甘の映画である。
何もしないことが幸せ、というメッセージは、なんだか大胆そうに見えてそうでもない。でも、そこだけは少しだけひねりが効いているからいい。何もしないからなんでもできる。何もしないことは忙しいにつながる。でも、そんな忙しさは楽しい。
大人になったクリストファー・ロビンは仕事人間になっていて、子どもの頃の自分を忘れている。だけど、プーと再会して、少しずつあの頃を取り戻す。そういう単純だけど微妙な感じはユアン・マクレガーだからちゃんと表現できるし、納得もする。単純に昔の記憶を取り戻すというのではなく、心の底ではずっと忘れないでいた、ということがちゃんと伝わるから。そして、プーたちがロンドンに行くのは彼を助けるためだが、彼があの頃のままだから、素直に行ける。あの頃のまま、が信じられる映画だからこの映画はこれでいい。ディズニーらしさがイヤミにはならない。
せわしない毎日、仕事に追われて大切なものを見失いつつあるお父さんたちへの一服の清涼剤のような映画である。確かにそうなのだが、あまりお父さんたちはこの映画を見ないのではないか。ディズニーお得意のファミリー映画にしたのだが、子供にも大人にも媚を売る作品はどっちつかずで誰にもアピールしない。