市川拓司を見ていると、この人はこれから作家としてきっと行き詰まってしまうに違いないと確信してしまう。それくらいに手の内が明白で、バリエーションがないのだ。何を書いてもいつも同じで、自分のことしか書けない。
同じように内気な男の子とか、女の子が出てきて、不器用な恋をする。彼らの世界はいつも狭くて、そこからはみ出したらそれだけで生きていけないようなのだ。だから、その小世界で息を潜めて生きている。
『今、会いに行きます』は衝撃的だったが、それ以降どれを読んでも同じで、それもまた別の意味で衝撃的だったりする。(自伝的エッセイ『きみはぼくの』を読むと、なぜそうなるのかが、よく解るが)彼としては今までで、一番長いこの『そのときは、彼によろしく』もまた、いつもと同じ話である。男の子2人と女の子1人。14歳の時の話と、15年後の再会した3人の話が交錯する。といっても、とても分かりやすく回想シーンがとてもいい。今、映画版が公開中だが、この小説がどんなふうに再編集されているのか興味深々だ。年齢的には長澤まさみが29歳というのは、かなり無理があるし、同じように映画化された岡田恵和の『天国は待ってくれる』とあまりによく似た設定なのも気になる。(まぁ、幼なじみの男2人と女1人なんて設定、ラブストーリーならごまんとあるけどね。)
この小説の終盤、思わぬ展開に対して怒った人がいるらしいが、その気持ちわからないでもない。しかし、市川拓司なんだから、こういう展開は当然ではないか、と思う。彼はこれしかできないタイプだし、これしかやる気もない。
繰り返し繰り返し同じ事を小説の中で描き続ける、とさっきも書いたはずだ。それはではなく、ライフワークだからだ。彼は新しいものには興味はない。大事にしているものを、愛しむだけで充分なのだ。そんなふうに生きてきたし、これからも生きていく。子どものままごとみたいな物語を丁寧に慈しみ描く。
ここに出てくる人間はみんな弱くて傷つきやすく、優しい人ばかりだ。この人はこれでいいんじゃないか、と思う。彼には作家としての野心なんてなく、ただ自分の思う事を、そのまま小説として書いているだけだ。大ヒットして、儲けようとか、文壇で認められて大家になろうとか、そんなことはこれっぽっちも思わない。この小説の主人公は彼そのものに見える。
14歳の3人を描く部分が素敵だから、彼らが長い歳月を経て傷だらけで再会し、さらにまた、長い歳月を経てもう1度3人に戻るまでが納得のいくものとして伝わってくる。眠り続ける彼女を待ち続けるという気の遠くなるような行為を受け入れ、そのことに喜びを感じる。彼はいつか彼女は戻ってくると信じる。信じて毎日の生活を続ける。小さな世界で、でもその世界を大切にして、日々を過ごしていく。この小説の穏やかな時間がとてもいい。500ページに及ぶ作品の結末が、あんなにあっけないほど、さらっとした再会だなんて、なんだか嬉しい。そのさりげなさに胸が熱くなる。
同じように内気な男の子とか、女の子が出てきて、不器用な恋をする。彼らの世界はいつも狭くて、そこからはみ出したらそれだけで生きていけないようなのだ。だから、その小世界で息を潜めて生きている。
『今、会いに行きます』は衝撃的だったが、それ以降どれを読んでも同じで、それもまた別の意味で衝撃的だったりする。(自伝的エッセイ『きみはぼくの』を読むと、なぜそうなるのかが、よく解るが)彼としては今までで、一番長いこの『そのときは、彼によろしく』もまた、いつもと同じ話である。男の子2人と女の子1人。14歳の時の話と、15年後の再会した3人の話が交錯する。といっても、とても分かりやすく回想シーンがとてもいい。今、映画版が公開中だが、この小説がどんなふうに再編集されているのか興味深々だ。年齢的には長澤まさみが29歳というのは、かなり無理があるし、同じように映画化された岡田恵和の『天国は待ってくれる』とあまりによく似た設定なのも気になる。(まぁ、幼なじみの男2人と女1人なんて設定、ラブストーリーならごまんとあるけどね。)
この小説の終盤、思わぬ展開に対して怒った人がいるらしいが、その気持ちわからないでもない。しかし、市川拓司なんだから、こういう展開は当然ではないか、と思う。彼はこれしかできないタイプだし、これしかやる気もない。
繰り返し繰り返し同じ事を小説の中で描き続ける、とさっきも書いたはずだ。それはではなく、ライフワークだからだ。彼は新しいものには興味はない。大事にしているものを、愛しむだけで充分なのだ。そんなふうに生きてきたし、これからも生きていく。子どものままごとみたいな物語を丁寧に慈しみ描く。
ここに出てくる人間はみんな弱くて傷つきやすく、優しい人ばかりだ。この人はこれでいいんじゃないか、と思う。彼には作家としての野心なんてなく、ただ自分の思う事を、そのまま小説として書いているだけだ。大ヒットして、儲けようとか、文壇で認められて大家になろうとか、そんなことはこれっぽっちも思わない。この小説の主人公は彼そのものに見える。
14歳の3人を描く部分が素敵だから、彼らが長い歳月を経て傷だらけで再会し、さらにまた、長い歳月を経てもう1度3人に戻るまでが納得のいくものとして伝わってくる。眠り続ける彼女を待ち続けるという気の遠くなるような行為を受け入れ、そのことに喜びを感じる。彼はいつか彼女は戻ってくると信じる。信じて毎日の生活を続ける。小さな世界で、でもその世界を大切にして、日々を過ごしていく。この小説の穏やかな時間がとてもいい。500ページに及ぶ作品の結末が、あんなにあっけないほど、さらっとした再会だなんて、なんだか嬉しい。そのさりげなさに胸が熱くなる。