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映画・演劇のレビュー

テノヒラサイズ『憧れのデコラティブライフ』

2019-10-30 20:13:57 | 演劇

 

作、演出が湯浅さんに変わって、テノヒラサイズはなんだかとても素朴でほのぼのして味わい深い作風に変わった。ある種のシチュエーションコメディなのだけど、それがお話を見せようとするわけではない。ストーリーが先行する芝居なのに、ストーリーより、空間が醸し出す空気感のようなもののほうが、興味深い。湯浅さんはこのなんともゆる~い雰囲気を大事にする。

 

お話自体は、あまりにたわいないもので、笑ってしまう。突拍子のない話だったはずなのに、それがそうでもない話へと移行していき、気づくとなんてことない話になる。つまらなくなってしまう、というのではない。それはこの作品をくさしているのではなく、これこそが湯浅祟の持ち味なのではないかと思うのだ。ただ、この芝居の魅力を説明するのは難しい。まずこれはたわいもない芝居なのだ、お話自体は。だけど、そのたわいなさが魅力なのだ。彼自身の個性がこのお話の主人公の性格にも反映されている。

波瀾万丈とは縁遠い平穏無事な人生。でも、それがある日とんでもない事態になる。巻き込まれ型のシチュエーションコメディなのだが、巻き込まれた彼はあまり動揺していない。ふつうに受け止めてふつうに対処していくうちになんだか何となく収まってくる。芝居自体もそんな感じになる。素朴でひねりがなく、きまじめ。だからといって無理して気合いを入れて、ひねりを利かせようとするわけではない。当然こけおどしで驚かせようとは思わない。あり得ない事態をふつうに見守る。

 

恋人と暮らし始めた部屋に帰ってくると、彼女が裸の男とソファにいた、という衝撃的な冒頭のエピソードから始まるのだけど、彼女も裸男も平然としている。この突拍子もない展開のオチはどこで付けるのかと思って見ていたら、なんだかはぐらかされたような展開になる。彼女の兄貴が彼を驚かせるため、なんていう説明にはなんの説得力もない。でも、それでいいのだ。大事なことはそういうことではないからだ。そこからスタートして、その後、強盗やら,ゾンビやら、幽霊まで、やってきてとんでもない展開になるのだが、それもまた、どうでもいいな、という気分にさせられる。このたわいないお話をさらりと見せることで、そのゆるさを楽しむ。これはそんな芝居だと思う。

 

このなんともバカバカしいお話をきちんとコメディとして見せたらいい、ということだ。無理はしない。90分間、観客を飽きさせず、愉しませることが出来たらいい、それだけなのだ。そんな気負いのなさが魅力になる。良質で上品な,罪がない、無理もない、そんな作品。

 


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