習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『レイン』

2015-03-21 22:47:28 | 映画
ラジオからはDJの声。流れるジャズ。うら寂しい町、クリーブランド。3日間降り続く雨。何かが狂い始めた。それはほんのちょっとした齟齬だったのかもしれない。でも、それが決定的な「何か」になる。雨に流され、消えていくいくつもの小さなドラマは、それぞれの人生を狂わせていく。しかし、それは自分と自分の周囲だけのことで、他の誰もが知らないことかもしれない。表面的には何も変わらなく、でも、決定的に何かが壊れてしまって、もう取り戻すことはできない。

夫と妻。知的障害を持つ青年。薬物中毒になった女。再生と決別。息子を失ったタクシードライバー。アルコール依存症で身を持ち崩した男。彼ら、彼女らのそれぞれの痛み、悲しみを包み込んで雨は降り続く。

ヴィム・ヴェンダースのプロデュースによるこの群像劇は、たった90分ほどの作品である。それぞれのエピソードはあまりに短く、淡く、その繋がりは希薄だ。ぼんやりと見ていたなら、細部を見落としてしまうくらいに。でも、別にそれでもかまわない。この映画の抱える寂しささえしっかり伝わればそれでいいからだ。ドラマを見せたいのではない。ただ、そこに彼らが生きていて、その悲しみを抱えたまま、そこに佇んでいる。そんな姿を目撃すればいい。それ以上のものは、いらない。

監督はマイケル・メレディス。こういう映画が埋もれていた。2008年のアメリカ映画。劇場公開はされてないだろう。いいものを見つけた。なんだかうれしい。

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