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映画・演劇のレビュー

佐川光晴『おれたちの青空』

2012-01-20 00:14:36 | その他
一昨年の『おれのおばさん』の続編なのだが、普通の意味での続編ではなく、作品がスピンオフのようなスタイルになっている。前作の主人公である「おれ」(陽平)の視点から描かれた話が、今回はもうひとりの主人公である卓也の方から語られる。前作と同じ話が視点を変えて描かれる部分もあるが、それ以前も含めて彼がこの施設にやってくるきっかけとなる両親の話から(要するに彼の出生から)始まる。この第1話『小石のように』の描くささやかな家出は、前作の補填のような機能を果たす。さらには、次のおばさんが自分のこれまでの人生を見つめ直す第2話『あたしのいい人』も、前作を補うアナザザースト-リーである。だが、それらがちょっと説明的な感じで、そこには新しい発見はなく、これではなんだか物足りない。

これは3話からなる中、短編連作だ。卓也とおばさんのそれぞれのエピソードをきちんと見せた後、陽平のその後を短く見せて全体をまとめる。だから、タイトルは「おれ」から「おれたち」へと変更される。実に心憎い全体の構成だが、それだけ。

作品としては、やっぱり前作の方がずっと面白かったのではないか。まぁ、それは最初と二度目の違いで、仕方ないことなのかもしれないが、このスタイルを取ることで、話が先に進まないのが問題なのだ。話が先には進まないのが難点だ。まぁ、とりあえずこれで彼らがここを巣立つ。そして、また新しい子供達がここにやってくる。もし、まだ話が続くのなら、また新しい子供たちとおばさんとのお話となるのだろう。

 こういう形で、中途半端な続編を敢えて作りたくなるくらいに、作者はこの作品への思い込みが深いのだろう。もちろんこういうこだわり方は僕は嫌いではない。


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