かなりドキドキする。見知らぬ男から電話があり、昔、借りたお金を返したい、と言われる。だが、彼女には心当たりはない。それどころか、相手のことも記憶にはない。話ぶりから、高校のクラスメートだったようだが、まるで憶えていない。まだ高校を卒業して1年くらいしか経っていないのだ。普通忘れるか?
それにしても、この男は何のために自分に近づいてきたのか。これは新手のナンパなのか、というと、そうでもなさそうなのだ。何が望みなのか、まるでわからない。しつこく付きまとうのではない。ただ、1度、会っただけでその夏は終わる。それから、毎年、夏になれば、その男はやってくる。と、言っても、これは19歳からのたった3年間の話だ。
彼女は23歳になれば自分の人生は終わる、と思っている。高校時代の彼女はまるで存在感がなかった。地味で目立たない少女だった。だが大学に入り、急に綺麗になったと言われる。でも、この美しさも23歳で終わる。期間限定の美でしかない。そう思いこんでいる。
男は何の目的で、彼女に近づいたのか、最後まで読んでもわからないままだ。終盤、彼について東京に行き、予定通り騙されてお金を無心され、田舎に帰る。そんなこと、最初から彼女にはわかっている。その通りになることを事前に納得しているのだ。わかっているから、それまでの時間を楽しめばいいというわけでもない。彼女は彼とつき合っても全然楽しそうではないし、すべてはしんどいばかりだ。嘘ばかりつく男に、自分も嘘で応戦する。くだらない騙し合い。そこからはお互いに何の利益も生まれないし、何の意味もない。
彼女は自分の人生を最初から最後まで諦めている。夢を見ることすらしない。素敵な恋に心ときめかすことなんて、最初からない。たとえ、現実は夢のようにはキラキラしていないとしても、夢見ることは人間に与えられた特権だ。なのに、そんなものには一切目もくれない。
何が彼女をこんなふうにしてしまったのか。本来ならそこがこの小説の核心であるはずなのだ。なのに、全く問題外とばかりに、無視される。ラストの急転直下にはついていけない。小説としてのルールなんか完全に逸脱している。自分をここまで価値のない存在におとしめてしまわなくてもいいじゃないか、と思う。『乱暴と待機』の時は、まだ、これはお話の世界の出来事だ、と客観化できたのだが、今回はあまりに生々しくて、無理だ。
この傑作は芥川賞の候補になったらしい。でも、受賞は逃した。要するに、こういうレベルの作品には芥川賞は与えないのだな、と感心した。受賞作はいつももっとつまらない新人ばかりだ。彼女のように才能在る作家にはこういう賞はいらない、ということなのだろう。
それにしても、この男は何のために自分に近づいてきたのか。これは新手のナンパなのか、というと、そうでもなさそうなのだ。何が望みなのか、まるでわからない。しつこく付きまとうのではない。ただ、1度、会っただけでその夏は終わる。それから、毎年、夏になれば、その男はやってくる。と、言っても、これは19歳からのたった3年間の話だ。
彼女は23歳になれば自分の人生は終わる、と思っている。高校時代の彼女はまるで存在感がなかった。地味で目立たない少女だった。だが大学に入り、急に綺麗になったと言われる。でも、この美しさも23歳で終わる。期間限定の美でしかない。そう思いこんでいる。
男は何の目的で、彼女に近づいたのか、最後まで読んでもわからないままだ。終盤、彼について東京に行き、予定通り騙されてお金を無心され、田舎に帰る。そんなこと、最初から彼女にはわかっている。その通りになることを事前に納得しているのだ。わかっているから、それまでの時間を楽しめばいいというわけでもない。彼女は彼とつき合っても全然楽しそうではないし、すべてはしんどいばかりだ。嘘ばかりつく男に、自分も嘘で応戦する。くだらない騙し合い。そこからはお互いに何の利益も生まれないし、何の意味もない。
彼女は自分の人生を最初から最後まで諦めている。夢を見ることすらしない。素敵な恋に心ときめかすことなんて、最初からない。たとえ、現実は夢のようにはキラキラしていないとしても、夢見ることは人間に与えられた特権だ。なのに、そんなものには一切目もくれない。
何が彼女をこんなふうにしてしまったのか。本来ならそこがこの小説の核心であるはずなのだ。なのに、全く問題外とばかりに、無視される。ラストの急転直下にはついていけない。小説としてのルールなんか完全に逸脱している。自分をここまで価値のない存在におとしめてしまわなくてもいいじゃないか、と思う。『乱暴と待機』の時は、まだ、これはお話の世界の出来事だ、と客観化できたのだが、今回はあまりに生々しくて、無理だ。
この傑作は芥川賞の候補になったらしい。でも、受賞は逃した。要するに、こういうレベルの作品には芥川賞は与えないのだな、と感心した。受賞作はいつももっとつまらない新人ばかりだ。彼女のように才能在る作家にはこういう賞はいらない、ということなのだろう。