大好きな村山早紀の新刊が出ていたから、早速手にした。なんと今回はSFファンタジーである。どうかなぁ、と思いつつ読み始めたが、気がつくと完全に魅了されていた。猫から進化したネコビトのキャサリンと犬から進化したイヌビトのレイノルドが新しい本を作るためにふたりで作戦会議をするところから始まる。
犬、猫、少女の物語から始まった小さな物語は宇宙を舞台にして人類の歴史を語る壮大な物語を紡ぐ。全体は5つの話から構成されている。本の編集者であるキャサリンがクリスマスの本を作る話だ。最初の一編をレイノルドと打ち合わせするエピソードから始め、次はトリビトの校正者アネモネ。地球から離れて月の地下で暮らす少女と地球から来た幽霊が彼の書いた小説を通して旅立つ話。さらには廃墟と化した地球に残されたロボットと付喪神の物語に。そして銀河連邦広報部の使者が出版する本の取材にやって来る話まで。だんだんスケールが大きくなりラストは本が完成するエピソードにつながる。これは一応SFだけど、描かれるものはたった一冊の本を作る話。
5つのエピソードには漏れなく4つの長いお話が付いてくる。(漏れなく長い、と書いたけど最終章はかなり短い)地球を離れ移民する話から始まって、戦争中に(太平洋戦争)少女が魔女のおばあさんに出会う話まで。2022年のクリスマスの話が最終帰着地点だ。壮大な物語は2021年から始まり22年にたどりつく。
もちろんその間は1年ではなく、数百年経っている。人類が地球を捨てて、月で生きるまでの日々が背景にある。壮大な物語はたった一冊の本を作る物語と重なる。なんとも感動的な物語なのだ。