ダムの底に沈んだ村。そこで暮らしていた祖母や母。都は21歳。適応障害から引きこもりになり2ヶ月。1年間の予定だったイタリア留学から撤退して自宅に戻ってきた。恋人の住む長野の村が台風の大雨によって被災した。林檎園も壊滅して、自宅も水に浸かってしまう。都は彼の安否が気になって駆けつける。12日間。彼女は彼の自宅の片付けを手伝って過ごす。
元旦の能登地震から3日経ち、今日からは正月休みを終えて日常に戻る人もいる。能登ではまだ、復興に向けて安否確認や捜索、復旧作業が始まったばかりだろう。
この小説をたまたま今朝から読み始めた。こんな内容だとはまるで知らないまま読み出した。新しい年の幕開けにふさわしい、なんていう気はないけど、夢中になってページを繰っていた。彼女の個人的な問題と目の前の台風の被害、さらには過去のダム建設計画。これは都がそこで何があったのかを知るまでの物語。ここまでが第1章。
次は都の母の話になる。彼女がなぜ村を捨てたのか。彼女の人生はなんだったのか。60歳の定年を迎え仕事だけにすべてを捧げてきた人生に区切りをつける時、彼女は何を思ったのかが描かれる。なんだか切ない。
そして最後は祖母の話だ。ダムの底に沈んだ村での日々が丹念に綴られていく。実はこの3章がこのお話の中心を担う。祖母の少女時代が鮮やかに描かれる。ここには何があったのか。あの桃源郷が今はダム湖の底に沈んでしまったこと。そこに至るまでのドラマが丁寧に描かれていく。最後までダム建設に反対して死んでしまう祖父。都のルーツが描かれていく。少し話が辛すぎるし、あまりに重いからこの第3章は読んでいてしんどかったけど、読み終えた後満足する。こんな歴史を経て今がある。おばあちゃん、おかあさん、そして今の彼女。ダム湖を見守る都の姿を捉えてこの長編小説は幕を閉じる。
遡り描かれる3世代のドラマは一部が重なりながら、それぞれの想いがしっかり伝わる力作である。