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映画・演劇のレビュー

『フランケンウィニー』

2012-12-31 22:54:23 | 映画
 これはティム・バートンの新作である。とても可愛い映画のような宣伝が為されている。もちろんセールス上仕方ないことだろう。だが、ディズニーのアニメ映画であるにもかかわらず、そんなことをしてもヒットしない。これはただの趣味の映画でしかないからだ。もちろん、そんな言い方はこの映画を貶すためではなく、この映画に込められた意図を代弁するためだ。

 これはティム・バートンのデビュー作品のリメイクなのだ。20分ほどの短編だった作品を、もう一度作りなおして、今回は長編にしてある。とても大事な作品なのだ。それを精魂込めて手作りする。オリジナルは実写だったが、今回はアニメ作品にした。ストップモーション・アニメーションなのだが、動きはとてもなめらか。でも、この場合、もっとぎくしゃくした方がよかったのではないか、という気もする。これは、とてもチープなものであってもよい。

 だが、モノクロで、しかも、3D(まるで3Dである必然性を感じないけど)。なんとも贅沢な作品なのである。本来は短編低予算映画として作られたものを、今回、あの頃の想いを秘めたまま、今の彼の置かれた状況を最大限に生かして、この作品は作られる。これはティム・バートンの叶えられた夢の世界なのだ。

 87分という尺もいい。長くも短くもない。劇場用長編としては少し短いけど、このくらいの長さが彼の本来の望みだったのだろう。だから、水増しもしないし、へんに大作にもしない。とても慎ましい作品なのだ。終盤の大騒ぎは少しそれまでの展開と異質だが、それくらいの派手さは必要なのかもしれない。もちろん営業上の戦略ではなく、趣味の問題としてだ。それによって、映画は全体のバランスを少し崩したが、別に気にはならない。ガメラもどきの登場には笑えたけど、それもこれも、やりたい放題の結果なのだろう。

 正直言うと、映画としては、少し退屈。子どもの頃見た映画の夢を叶えたティム・バートンはさぞや満足していることだろう。でも、個人的な世界は必ずしも万人の共感を呼ぶわけではない。もちろん、そんなこと、承知の上だろう。だから、趣味の映画だというのだ。

 丹精込めて、ハンドメイドで、この小さな世界を愛しむ。大好きな愛犬が死んでしまい、ショックを受けた少年が、なんとかしてウイニーをよみがえらせようとする、という話は、かつて子どもだった誰もが夢見るお話だろう。『シザーハンズ』の頃からずっとスモールタウンの幻想のこだわるティム・バートンの原点がここにはある。

 ティム・バートンの趣味の世界に付き合えない人は見ない方がいい。だから、小さな劇場でひっそりと公開する方がいいのに、なぜか東宝系での全国公開になった。別にヒットはしていない。でも、問題はない。

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