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映画・演劇のレビュー

宇佐見りん『くるまの娘』

2022-06-12 10:09:12 | その他

なんだか不思議なタイトルだが、読み始めて、その内容のままのシンプルすぎるタイトルだと気づく。まだ前半までしか読んでいないから、この後の展開でこのタイトルが意味深になるのだろうか。家族を乗せた車の娘は乗っているけど、それだけでこんなタイトルにはしないよね。17歳の女の子、かんこが主人公。彼女の抱える問題が描かれる。家族のことだ。ひらがなの「くるま」とは何なのか。気になる。

お話は祖母の死から始まる。家族で葬儀に出るため車を走らせる。両親と3人で遠方の祖母が死んでいた家に行く。父親の実家だ。祖母はそこでひとりで住んでいた。車中で1泊して、翌日には片品村に到着する。途中で一度は合流した兄とその奥さんは先に着いていた。父と兄は仲違いしている。母親は脳梗塞の後遺症で、記憶障害の傾向もあり、最近の記憶がない。前半は父の実家への旅で、車中の場面が中心で、後半は葬儀になる。(ここまで書いてから、後半を読んだ。以降は読後の感想)

1泊2日の旅が描かれる。でも、結果的には予定外の3日目も含む3日間の旅になる。思い出の遊園地に寄り、そこであの日のメリーゴーランドに乗ることを母親が熱望する。だがメンテナンスのためメリーゴーランドは運転休止となっていて、母親はパニックを起こす。

最後まで読んで、確かにくるまの娘の話だな、と改めて思う。そこに象徴させたものは明確になるが、それほど深い意味はない。彼女が車の中に引きこもるラストの展開はいらない。3日間の話だけに集約させた方がよかったのではないか。あのラストの展開が欲しいのならもっと書き込まなくてはバランスも悪いし、納得いかない。遊園地のシーンで終わるべきだと思った。あそこでこの家族をどうするか、どういう決着をつけるのか、そこが作者の腕の見せ所だと思う。でも、そこを曖昧にしたまま、エピローグのひきこもりにつなぐのはなんだかなぁ、と思う。

祖母の死があまり意味を持たないのも、気になった。この家から避難して独立した兄との問題も決着はつかない。遊園地まで兄を呼び出したのに、そこでのお話を進展させなかったのはなぜか。いろんなところで中途半端。


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