壮大なスケールの叙事詩だ。22歳の新鋭がこんな作品を作るのか、と感心する。お話自体は先日見た『グリーンナイト』にも通じる。あの映画の描いた寓話と、この小説の寓話は同じだ。人は何のために生きるのか。我々の生きてきた歴史はその解明にある。あの映画の主人公の1年間とその後の旅が描くものと、この小説の壮大な歴史のうねりの中のある5つの時代(9608年から12851年)の5つのお話の主人公たちのたどるドラマは結局は同じなのである。僕たちは与えられたささやかな人生を生きていく。それは100年なのか50年なのか、1年でしかなにか、わからない。明日死ぬかもしれない。でも確かなことはいつか死ぬ。それは誰であろうとも避けられない事実だ。わかっていながら、でもふだんは意識もせずに生きている。
突然の疫病でたくさんの人が死ぬ。それを食い止めた少女。自分の好きなこと(天体観測)だけに精出す男と、自分を亡くして国のために戦争に突入する王。宮廷から出ることがなかった姫と彼女の世界を教える教師。戦乱の中、行き場を亡くした人々。管理された場所で穏やかに暮らす人々。そこに描かれるのはいずれも孤のドラマ(男女のお話)だ。そこからそれが壮大な歴史のうねりへとつながる。
人が何を求めてどこで躓き、どこにいきつくか。結局はこの幾千年のドラマはやはり『グリーンナイト』の1年間とその後に続く死への旅と同じだ。たまたま連続してこの2本を、見て、読んだ。そのことには何のつながりも深い意味もないし、それはただの偶然だ。しかし今この時期にこの2つの作品を見たことにはましかしたら何か大事なメッセージがあるなかもしれない。近年風邪なんか引いたことがなかった僕が風邪で寝込んだ。それが妻にも伝染した。コロナ禍の今、それだけでなんだか怖い。
世界の中心に聳える巨大な木。その木の謎を巡る壮大なドラマは『2001年宇宙の旅』にも通じる。巨木はあの映画のシンボル「モノリス」も想起させる。作品自体は力作だし、これまでの著者が書いてきた青春小説とはまるで違い、壮大なドラマだ。渾身の大作である。それを破綻なく最後まで綴り自分の世界観で構築しており、見事だ。確かにとてもおもしろかったのだが、実は読むのに疲れた。『グリーンナイト』のそっけない展開、さりげない寓意の後では少しこれでは重すぎた。