実をいうと最初はあまり乗れなかった。読みにくい。エピソードが飛びまくるので。小説としては下手だな、と思った。しかもなんか嫌な話だし。もう読むのをやめようかな、とも思った。でも、我慢して読んでいくうちに、やがてこれは確信犯なのだと気づく。そして後半、だんだんこの小説のタッチが理解できてくる。そうすると面白くなってきた。そういうことだったのか、と思う。主人公の抱えるもどかしさ。それが描かれていたのかと、思う。
自分のペースで生きること。よいところとわるいところも含めて。広く世間に認知されたいとか、お金持ちになりたいとか、そんなことはどうでもいいことで、大切なのは、自分が満足しているかどうかということ。楽しくなくては意味はない。ささやかであってもいい。ひとりよがりだと思われてもいい。自分と自分の周囲の人たちを満たすことができたなら、それが一番だと思う。そんな気分にさせてくれる小説。それがこの作品の描きたかったことだろう。
自分の店を持ち、おいしい料理をお客さんに楽しんでもらう。必要以上に繁盛しなくてもいい。一時の人気なんて意味はない。細く長く。毎日が充実していれば、それが何よりのこと。そんな気分にさせてくれる。嫌なヤツばかりが出てくる。でも、彼らは彼らで精いっぱい生きている。そんな彼らがここにきて、おいしい料理をふるまわれ、ほんの少し心が変化する。主人公の店長は彼のファンである従業員の女の子に助けられてこの店を切り盛りしていく。そんな1年間の4つのエピソードが綴られていく。『山の上のランチタイム』の続編らしい。これはぜひ、前作も読まねばなるまい。