習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

朽木祥『オン・ザ・ライン』

2012-06-30 09:18:22 | その他
なんでこんなところで韓流ドラマみたいに交通事故を起こすのだ、とちょっと憤慨した。2部構成の小説だ。ちょうど前半の最後で事故が起きる。これはあきらかに作者の仕掛けたものだ。でも、それはあまりにあざとい。しかし、ラストまで読んで、この作者の意図はしっかりと伝わってきた。

これは、挫折についての物語なのだ。大きな挫折を通して、人はどんなふうに立ち直っていくのか、というのがテーマ。だから、あのわざとらしい交通事故が、作品のちょうど真ん中に来て、そこから話は全く違う方向にむかう。テニスに打ち込む高校生の青春ものだったのに、悲劇のメロドラマになる。まぁ、恋愛ものではないのだから、メロドラマというのは嘘ですが、だが、男同士の友情とそれが事故を通して破局していき、もう取り戻すことが出来なくなるという意味では、これは一種のメロドラマなのかもしれない。(と、勝手にこじつける)

一瞬のニアミスが、すべてをダメにする。「オン・ザ・ライン」というタイトルがそのことを示す。一球のミスがすべてを決める。だから、この一球に全力を傾ける。しかし、力が入りすぎて、ラインを割ってしまったなら、試合は負けだ。そして、人生もそれと同じ。

 なんか、クラシックなスポ根もので、とても現代のお話とは思えない。テニスのことを庭球とか言ってるし、描かれる学校が、まるで昭和の雰囲気で、バンカラだし、まぁそれは作者の高校時代をイメージして書かれたものだから、そうなったのだろう。この小説の作者は50代の後半で、きっと地方の人なのだろう。でも、この雰囲気は僕にはよくわかる。昔、『エースをねらえ!』を見て、ドキドキしていた中、高校生の頃を思い出させる。作品としては、それほどすごいわけではないけど、この懐かしさは悪くはない。

 だが、作者は青春もの、とか、スポーツ命とか、それが描きたかったわけではないのは、先に書いたとおりだ。事実をどう受け止めて、その先をどう生きていくのか。いろんなことを考えさせてくれる小説である。今年の課題図書(高校生の部)に選ばれた。まぁ、悪くはない選択だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『外事警察』『グレイブ・エ... | トップ | 窪美澄『晴天の迷いクジラ』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。