帰るべき場所を失ってしまったら、どうするか。自分たちの住んでいた場所に帰れなくなり、地域の祭りも失われる。でも、何とかして、伝統を残したい、引き継ぎたい、という想いが、彼らを被災地からなんとハワイにまで向かわせることになる。映画はその着地点を明確にしないまま、思いもしない方向へと舵を切る。100年の時間がこの唄と踊りを作った。伝えた。だから、それを失くすわけにはいかない。そのための戦いが描かれる。故郷であり、自分たちが暮らす場でもある双葉町に帰れないまま、他の土地で避難生活を続ける横山久勝さんとその仲間たち。彼らが、双葉町の伝統的な盆踊り「双葉盆唄」を存続させようとする話が軸になっている。
帰還困難地域として指定され、町は損なわれる。人がいなくなり、当然、祭りも、盆踊りも盆唄もなくなる。自分たちの町の盆踊りがなくなるのは嫌だ。これは帰る場所を奪われてしまった人たちが、それでも自分たちの唄を残す、伝えるために過ごした時間を描くドキュメンタリーだ。
しかも、彼らは暑苦しくない。これが押しつけがましい映画にはならないのは、メッセージを伝えるための映画ではなく、これが彼らの日常を丹念に描いていくものだからだ。震災と、原発事故によってふるさとを追われ、暮らす人々。場所を失うと祭りを存続させることも叶わない。盆唄を伝えるためハワイへと向かう。そんなドラマチックにも描けることを、気負わずにさらりと見せる。
ラストの復活盆踊りのシーンが感動的だ。ここでも敢えてさらりとした見せ方に徹する。石巻の仮設で奇跡的に幻のように盆唄は復活する。櫓を立てて、唄い踊る。みんなが集まってくる。もう一度、ふるさとの唄と踊りをするために。
時間をかけて盆唄をよみがえらせるのだ。この映画を見ながら、時間をかけて大切なものを守ることがどれだけ大事かを思い知らされる。双葉町の人たちを追いかけながら、どこにたどりつくのかわからないまま、この映画を作り続けた中江裕司監督の想いが結実する。