先週のレトルト内閣『革命少年』に続いて、なんと2週連続で三名刺繍さんの新作を見る。銀幕遊学レプリカントの佐藤香聲さんの演出だ。このなんともいいようのない「土曜サスペンス劇場」のようなタイトルとチラシ。もちろんそれはあきらか確信犯だ。故意に軽いタッチで作られてある。
神戸港のナイトクルーズで出逢った謎の美女。別れ際、彼女が残した言葉。もう一度彼女に逢いたいという想いに導かれ、訪れた彼女の家。とんでもない豪邸。そこで双子のメイドに誘われて、屋敷の奥へ、彼女のもとへと向かう。いったいどこまで続くのか想像もつかない長い廊下。その先へ。もう戻れないそんな闇の中へと。
要するにこれはそういうお話なのだ。とことん作り物。あり得ないようなお話。この物語の主役の青年を突劇金魚の山田まさゆきが演じている。いつもながらとても上手い。受け身となる巻き込まれ型なのだが、自分が前面に出るのではなく、ストーリーテラーとして周囲に溶け込んで(もうひとりちゃんとしたストーリーテラーとなる女性がいるのだが)作品世界をリードしていく。お話は『牡丹灯籠』に近い。彼は女に取り憑かれていくのだが、おどろおどろしいお話ではなく、おしゃれでエレガンス。音楽とパフォーマンスの融合したスタイリッシュな演出が効果的。
観客はこのあやかしの世界に誘われ、75分間の不思議な体験をすることになる。作品自体は『トイレの花子さん』をモチーフにした怪談。深夜の学校に忍び込んで、そこでトイレの中で、何を見たか、ということがお話の核心にはあるのだが、そこはあまり大事ではない。(トイレに閉じ込められた女はどうなったのだろうか?)怪しい人物が入れ替わり立ち替わり登場し、わけのわからない迷宮世界へと連れていかれる。
都市伝説を題材にしたホラー映画や小説なら枚挙にいとまはない。これはそれの演劇版。身体にお経を書いてもらう(耳なし法市、ね)とか、冗談のようなエピソードも交えたアトラクション型演劇。要するにお化け屋敷なのだ。
ストーリーも単純で、それを佐藤さんは、けれんみもたっぷりの演出で見せてくれる。いつもの佐藤さんならもっと過激にするところを今回は少し抑えてマイルドにしてあるのもいい。それは三名さんの台本も同じで、初めて芝居を見るような人に、芝居の面白さをしっかり伝えることも今回の作品の課題だ。わかりやすくて、ドキドキする作品に仕上げた。ホラーだけど、怖いだけではない。完成度の高いしっかりしたエンタメ作品として仕上がっている。