桂望実の小説を4年越しで黒木瞳が映画化した。しかも、彼女は自分が主演するのではなく、自分で制作プロデュースしようとして、結果的に監督デビューもした。(この映画化の後、先に放送されたNHKでのドラマ化がなされ、そこでは主演をした! ややこしい)別に監督になりたかったわけではない、らしい。この小説が好きで、これが映画になるのを見たかったのだ。自分が見たい映画を作る、それって、それこそが本当の夢の実現ではないか。なかなかそうはいかない。だから彼女も実現まで4年がかかった。
そして、結果的に実に素晴らしい映画になった。これは女優の片手間で作った映画なんかではない。「黒木瞳」監督は、女優、黒木瞳と同じように素敵でチャーミングなのだ。主演の吉田羊がとてもいい。受けの芝居に徹してやりづらい役のはずなのに、監督の分身として、映画の中に地味に存在し、結果的に主役として輝く。黒木瞳は、「裏方の仕事の方が性に合う、」とインタビューで語っていたように、自分で演じるのではなく吉田羊という役者を通して(自分で、ではなく、)その言葉を実践したのだ。そんな主役の吉田(彼女の仕事は弁護士)とは反対に、派手でいつも自分中心で、センターでキラキラしている女性を木村佳乃(だから、彼女が「嫌な女」なのだ)が演じた。彼女は、結婚詐欺師で、憎めない女を嬉々として演じている。でも、彼女だってただのわがままではない。みんなそれぞれ大変なのだ。これはそんな対照的なふたりの女性を通して、今を生きることの意味を問う。そういう図式だ。
30代(たぶん後半)の女性が、仕事や恋に臆病になったり、自信を持ったりする姿を描く。要するに、誰にでもある、どこにでもある日常を描くのだ。でも、それが、こんなにも軽やかで、楽しくて、見ている僕たちを元気にする。これはささやかな映画だけど、こんな映画こそが今の時代に必要なのではないか、と思わせる。まぁ、そんな大げさなものではない。でも、ふたりの女たちの抱える痛みをちゃんと描きながら、それを平気な顔で乗り切る姿はやはり感動的だ。