こんなラブストーリーを木村大作監督が作るなんて、思いもしなかった。今まで山の映画ばかり作ってきた(まぁ、監督作品としては2本だけれど、それってすべて、でもある!)彼が初めて時代劇に挑む。派手で激しい殺陣のシーンがあるわけではない。それどころか静かで抑えたタッチで全編が綴られている。これはアクションを見せるための映画ではないからだ。だけど、剣を交える戦いの場面はとても激しく、美しくて切ない。
これは3角関係のお話なのだ。ひとりの女を愛した2人の男。どこにでもあるお話だ。それを時代劇のフォーマットのなかで、ひそやかに描いていく。お家騒動を中心にしたお話のほうも、どこにでもあるお話で、こんな映画なら今まで山盛り見てきた、と思える。なのに、これは今まで見たことのないような映画になる。抑えた想いが抑えられたままで、最後まで崩れない。そんな関係を演じた3人が素晴らしい。主人公の岡田准一は寡黙なまま。西島秀俊も、同じように黙して語らず。ヒロインの麻生久美子は冒頭で死んでしまうから、ほとんど何も言わない。だけど、彼女の遺言がお話を動かしていく。3人の秘められたままの想いが映画をラストまで引っ張っていく。見事、としか、言いようがない。
さらにはそこに麻生の妹を演じる黒木華の岡田への想いが絡んでくる。こんなにも繊細なラブストーリーをあの豪快な木村大作が作るなんて想像もしなかった。撮影監督としてさまざまな映画を支えてきた彼が監督になり、(もちろん自分の映画は自分でカメラをまわす)これで3本目になる。誰も作れない彼だけの映画がここにはある。