ついに南田信吉作、演出作品の登場である。彼が大阪新撰組の座長に就任してから、幾星霜、待ちに待った真打ち登場である。なんて、いうのは嘘だ。そんな気合いの入ったものではなく、(要するに、渾身の力作ではなく、)肩の力の抜けた小さな作品を彼が提示するのがうれしい。それは自信のなさではなく、大人の余裕だと思う。アトリエでの公演というのもいい。でも番外編ではなく、劇団としての本公演だ。まぁ、そんな細かいことに拘るのはヤボだろう。作品の中身に入ろう。
ウルトラセブンをモチーフにしたヒーローものである。主人公は宇宙人が地峡を破壊するのを阻止しようとする。しかし、その宇宙人自身も(なぜか、かわいい女の子が演じる)自分がこの星に置いてけぼりにされたことを知り、動揺する。宇宙人女子は、主人公にウルトラアイを渡すのか、否か、というところから芝居は始まる。
学生時代の想い出、幼い頃の憧れ、今の自分の置かれた状況、それらが交錯して1時間ほどの中編として無理なく仕上げた。登場人物も4人と最小限に抑え無駄がない。主人公を巡る2人の女という配置もシンプルでいい。ウエットな話なので、感傷過多になってしまうと、独りよがりなものになりかねないのは承知の上だろう。そこをギリギリのところでバランスを取り、さらりと見せてくれる。南田さんが学生時代に書いた台本をリライトしたものらしいが、お話との距離の取り方が上手い。芝居は最後までウルトラアイを手にして変身するという行為にたどり着かないのは必定だろう。単純なヒーローものではない。ヒーローなんていないし、自分ひとりで地球を守れるわけでもない。
正義のために戦うなんてことが信じられるのは幼い頃だけのことで、大人になれば、誰もがそんなバカなこと、と一蹴するだろう。しかし、心の中では信じることを忘れていない。そんな心の揺れをこの芝居は掬い取ろうとする。