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映画・演劇のレビュー

ジャブジャブサーキット『しずかなごはん』

2015-12-23 20:26:28 | 演劇

とてもすてきな芝居だった。2時間、温かい気持ちが持続した。ここにいたなら安心できる。そんな気分にさせられる。自分が摂食障害になったなら、ぜひこのクリニックで治療を受けたい、と、まぁそこまでは思わないけど、この芝居の世界と、その醸し出す空気が僕たちを安心させる。それはきっとはせさんの優しさだ。芝居は物語でもあるはずなのに、ここではそれがあまり重要にはならない。いつものようにちょっとしたミステリータッチなのだが、事件とか、その結末とか、あまり気にならない。ただ、ここにいて、先生たちと話をしていれば、いい。(観客である僕たちは、そんな彼らの話に耳を傾ける)

10年ぶりの再演となる。もうあれから10年が経っただなんて、信じられない。ほんの数年前のことのように思える。ずっとジャブジャブの芝居を見ていて、それが当たり前になっているからか。それとも、自分が年を取ったからか。

これは「ジャブジャブサーキット30周年記念公演」の第2弾となる。この作品を数あるはせさんの傑作の中から敢えて記念公演として再演することにしたのはなぜか。これはもともとジャブジャブ作品としてではなく、こころネットKANSAIの依頼で書かれた作品だ。だから、本来のジャブジャブ作品とは少し違う。にも、かかわらずこれを今回選んだ。そこには、はせさんのある種の想いが影響しているはずだ。

先にも書いたとおり、これは摂食障害を扱うメッセージ色の強い作品で、初演の時には、いつものはせさんとはなんだか趣が違うな、と思った。しかし、今日再び見て、これはとてもはせさんらしい作品じゃないか、と想いを新たにした。こんなにもストレートにはせさんの優しさが前面に出た作品だったのだ。そのことに感動した。でも、だからこそ、少しはせさんはテレている。そこもカワイイ。ところどころ過剰に笑わせようとするところもある。遊び心からではなく、それはテレだ。とても緊張している。扱う題材が題材なだけにとても慎重になっている。当然のことだ。たくさんの患者さんに会って話を聞いたはずだ。そこから書き下ろした。すごいプレッシャーだったはずだ。初演時は余裕なんかなかったかもしれない。

いつも以上に微妙な問題を丁寧な手つきで扱う。しかし、それが今見るといつも通りのはせさんに見える。そうなのだ。これはいつもと変わらないジャブジャブ作品なのである。でも、そこにはいつもと違うアプローチもある。そんなところに敢えて今回30周年記念作品としてこれを持ってきた意図があるような気がする。

誰もが抱える痛みと向き合い、答えを出すのではなく、優しく労わる。ジャブジャブサーキットの芝居の魅力が存分に詰まった小佳作である。


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