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映画・演劇のレビュー

『オール・イズ・ロスト 最後の手紙』

2014-04-02 19:51:35 | 映画
 すべて、失う。そこから始まる物語。なぜそんなことになったのかは、回想で描かれる。しかし、この映画はなぜ、そうなったのかを描くための映画ではない。登場人物はロバート・レッドフォードただひとりだ。しかも、ひとりだから、しゃべらない。言葉による説明は一切ない。事実が描かれるばかりだ。彼は泣き言一つ言わずに、黙々とその事実と向き合う。

 ヨットで旅をしていた。難破した船のコンテナがぶつかってヨットの側面に穴が開く。そこから始まる様々な苦難。こういうお話って、幾つもの困難を乗り切る不屈の魂の記録とか、そういうなんだか暑苦しいお話になることが多い。ヒューマン・ドラマってやつだ。だが、この映画はそうではない。淡々と事実を受け止め、自分にできることを最後まで続ける。

 彼が何者なのかというバックボーンも一切ない。この映画にはそういうお話は必要ないからだ。目の前の遭遇した事実を受け止め、今の自分にできることをこなしていく。でも、さらなる苦難が訪れる。だが、それも静かに受け止める。自然の中にいて、恐怖を感じないわけではない。誰も助けてはくれないし、どんどん状況は悪くなっていくばかりだ。生存できる可能性は薄れていく。

 オール・イズ・ロスト。そこにはただ事実ばかりがある。そうは思いたくない。まだ、可能性はあると信じたい。だが、現実はそうではない。すべて、やることはやり尽くした。だから、すべてを失った、と言える。だが、それは絶望ではない。

 106分間、スクリーンから目を離すことはできない。すごい緊張感だ。レッドフォードの一挙手一投足から目が離せない。彼が黙々とこなすすべてを見ていたいと思う。ラストシーンも安易な終わり方ではない。すべてを失った、その先に何があるのかを見せる。そこには修行僧が悟りを開いた瞬間のような感動がある。幻を見てしまったのかと思った。もちろん、そうでもいい。だが、彼は錯乱したのではないということが明かされるあのラストはいろんな意味で凄い。



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