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映画・演劇のレビュー

空の驛舎『エリアンの手記』

2010-03-15 23:08:22 | 演劇
 山崎哲の台本にまっこう勝負で挑む中村賢司さんの渾身の作品。重くて暗い。見ていて息が詰まる。遊びは当然まるでない。そんなことをしている余裕はここにはない。生真面目で頑固。そういう意味ではとても中村さんらしい作品になっている。だから、とても緊張させられる。肩に力が入るし、見終えた時には、ぐったり疲れてしまった。

 でも、近年ここまで真剣な芝居を見たことがなかった。それは他の芝居がつまらないとか、不真面目だ、とかいうのとは違う。みんな真面目で全力で自分たちの芝居に取り組んでいることは重々承知している。そのことを踏まえた上で言っているのだ。気後れすることなく、この名作に自分の全力で取り組む彼の姿勢は素晴らしい。その融通の利かなさすら美徳に思える。

 いじめによる自殺、といういつの時代にもある普遍的なできごと(に今ではなってしまった)を真摯に描いていく。実際に起きた事件を取材して書かれたこの台本は当時は衝撃的だったはずだ。だが、今ではありふれている。そのことを踏まえた上で中村さんはこの素材に挑む。

 原作通りの芝居をあれから20年以上を経た今、再現する。古典とも言えそうなこの作品を、テキスト通りに描くことで、いじめという普遍をこの事件に象徴させて見せることが可能となった。

 家族の関係、クラスメートとの確執、彼らの保護者、担任も含めて事件の周辺から立ち上がってくる様々な問題が丁寧に描かれていく。この丁寧さは貴重だ。主人公の少年(三田村啓示)と、彼の妹(津久間泉)。このふたつの視点を核として綴っていく。芝居自身はとても見やすい作品だ。仲村さんは斬新は作品ではなく愚鈍にすら見える作品としてこの芝居を見せて行く。

 主人公の少年の内面はリアルタイムではないことで、きちんとした距離感が生じる。演出家が熱くなることなく、作品を相対化して見せることで、この芝居はきわめてアクチュアルな作品として、リニューアルされた。抑制の効いた演出の勝利だ。


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