森見登美彦の初期作品であり大傑作、青春小説の金字塔が、なんとアニメ映画化された。これを見逃すわけにはいかない。あのハチャメチャな作品がどんな映画になってよみがえるのか。果たしてこの映画を見て広瀬は泣くのか、興味は尽きない。(というか、僕はなぜか、このあほうな原作小説を読んで泣いてしまったのだ! まぁ、そんなこと、他人にはどうでもいいことだろうけど、僕には重大事だった。どこが僕の琴線に触れたのかは、定かである。言わないけど、)
京都の夜の暗さと、怪しさは、誰もが知るところだろう。森見はいつもそこにこだわる。最新作『夜行』もそうだった。この究極の恋愛小説は、ヘタレ学生の切ない想いの暴走を、そのどこまでもエスカレートさせていく妄想を、とことん描き尽くすというところにその面白さがある。かなりなボリュームの原作を、さらりとはしょって、しかも取りこぼしなく、なんと93分にまとめたのは凄い。(でも、少しもの足りない気もしたけど。)
アニメーションならではのアプローチで原作のとんでもない世界観をそのまま表現して、大胆な省略と誇張で、このあり得ないストーリーをなんだかあり得るように見せてしまうのはさすがだ。原作を読んだとき、そのあまりのバカバカしさとめちゃくちゃさが、でも、京都ならあり得るかも、と納得させられたけど、現実世界なのに、現実とは思えない魔の異空間へと変貌させる京都という磁場をアニメでも可能にした湯浅監督とそのチームは凄い。実写でこれをしたならきっとなんかグロテスクで居心地の悪いものにしかならない、はずだ。原作と同じ話なのに、まるで違う肌触りで、確かに『夜は短し歩けよ乙女』の世界を体現した。これは最近よくある原作マンガそのままの実写化とは違う。
主人公2人のバランスが、どちらかというと、とんでもない行動をする乙女のほうに置かれたのは、意外だった。彼女に振り回される主人公目線で話が展開するものと思っていただけに驚いた。映画はそんな彼女の暴走を止められない。そこもまた作品にブレがない。原作では一番インパクトの強かった李白との飲み比べ対決のシーンが、前半のかなり早いところにきていて、しかもあっさり描かれる。えっ、と思ったけど、終わることのない一夜、というコンセプトはぶれないからそれでいい。
夜の話なのに、原色を多用したきらびやかではなやかな空間も、意外だったけど、それもこれも、こんな『夜は短し歩けよ乙女』もありだな、と納得させるのだから、すごいと言える。参った。(でも、泣けなかったけど)