サム・メンデスが監督になって、007は今までの映画から大きく飛躍した。今回のシリーズ第2弾も、期待に違わぬ秀作である。しかも、前作とは微妙に違う切り口を提示した。やられたなぁ、と思う。ちゃんと前作を引き継いだ上で、そうなるのが憎い。うますぎる。ただ、作品自体の完成度や好みで言わせてもらうと、やはり、前作『スカイフォール』には及ばない。2番煎じが前作を凌ぐはずもない。だから、それでいい。奇跡は1度だから奇跡なのだ。本作はシリーズとして通算すると24作目となるようだ。そしてダニエル・グレイグになってからは4作目。前作につながるストーリーで、ボンドのルーツを描く。
だが、今回の凄さは、そこではない。なんと悪の秘密結社「スペクター」(鷹の爪団のような)なんていうのを、この現代に提示したところにある。21世紀に、シリアスなスパイ映画のはずの本作が、時代錯誤も甚だしいそんなのを登場させて、そのスペクターとボンド(ショッツカーと仮面ライダーのように)のタイマン勝負を世界的なスケールで見せる、なんていう荒唐無稽をする。まるでロジャー・ムーアの昔に戻ったような展開。(冒頭のタイトルシーンにタコとか出てくるし、なんだ、あれは!)
だが、実はそうじゃない。こんなにもバカバカしい設定なのに、それを実にリアルに見せところに今回の作品の肝があるのだ。しかも、それがなんとも実に渋い。大胆なのに派手なだけのCGでの馬鹿アクションはしない。雪原でのアクションとか、体を張った、しかも、おしゃれな見せ方で、さすが、007と感心させる。同じように体を張っても、この夏のトム・クルースによる『ミッション・インポッシブル』の新作とはまた違う魅力なのだ。ダンディでスマートなのである。そこが万年青年トムと、ダニエルの違いと言えば、それまでだが、これは方向性の相違だと思う。どちらがいいとか、わるいという問題ではない。
要するに、この映画はシリアスと荒唐無稽のはざまで、エレガンスに重いタッチをキープして見せる大人の映画なのだ。