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映画・演劇のレビュー

劇団大阪新選組『短編まつり3~そのスペースは空いてますか~』

2020-03-22 09:24:54 | 演劇

昨年の傑作『短編まつり2 ~屋根裏 EXPO 2019~』に続く第3弾。今回はスタジオカリバーに戻って小さな作品にした。30分ほどの短編が3作というスタイルはいつも同じだ。今回のお題は「ポン酢、トランプ、宇宙」。3つの作品のテーマはそれぞれ自由な選択をしているはずなのに、なぜか、今回も同じようなテイストの作品が並ぶ。

新選組はコロナウイルス感染予防のため公演の自粛も相次ぐ中、上演に踏み切る。短編連作なので、各エピソードごとに休憩を挟み、そこで確実に換気を行うという本来ならしないインターバルを設けた。全体の流れは中断されるけど、仕方ないことだろう。

いろんな状況を加味して、上演を決行して、その結果出来上がった作品は、今という時間の気分を見事に体現する作品にたまたま仕上がてしまった(という気がする)。この作品の余白の多さは偶然なのか、それとも意図したものなのか。サブタイトルの「そのスペースはあいていますか」という言葉がとても見事に3作品の気分を象徴しているから、これは確信犯的に意図したものだろうと思うけど、不思議な感じだ。

たとえば最初の作品。(『幼虫を飼う男』作、演出は本多信男)市役所の屋上でセミの幼虫を食べる男。ポン酢をかけて。そのおぞましい行為をさりげなく語る彼の自然体。それを聞くことになる女も、自然体でそれはないでしょとふつうに拒否る。そこにはこれみよがしなドラマはない。2話目の『僕はかわいいアリスちゃん』(作、演出は阿矢)も、地球に帰る宇宙船という設定のはずなのに、そこで繰り広げられるたわいもない会話や、行為(トランプをしてるだけ)も、バカバカしいけど、さりげない。そこには切実さはない。さらには最後の『エウロパからは何マイル』(作、演出は座長の南田吉信)に至っては子供を抱くようにして撃ち込まれてきたミサイル(というけど、熊のプーさんのぬいぐるみ)を抱えて、やってくる女と、彼女を受け入れる女性のやりとりだけ。

それぞれのエピソードで描かれるのは「終末の風景」に思える。でもそれらは、悲惨な光景ではなくさりげない日常の風景として綴られる。「終末」は「週末」でも構わないくらいになんでもない。3つのお題もことさらそれを上手く取り入れようとはしていないのもいい。なんとなく、お題なので取り込んだだけ、という次元だ。なげやりなのではなく、今ある現実をただただ受け入れて生きていくしかないのだ、という諦念(のようなもの)をそこに感じるのは、僕に思い過ごしか。自粛ムードの毎日の中で春が来ようとしているにもかかわらず、まるで心は弾まない毎日の中で、そんな気分をこの芝居が体現しているなんて考えるのは思い過ごしだろうけど、これを見ながら、この小さな芝居を今見る偶然に感謝したい気分になった。言いたいことを敢えて声に出さないまま提示する芝居が今は心地よく思える。

 


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