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映画・演劇のレビュー

瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』

2019-02-16 14:02:31 | その他

こんなにも心を揺さぶられる小説にはなかなかお目にかかれない。ありえないほどとんでもないお話なのだが、それが奇想天外というのではなく、笑えるくらいにふつうに描かれていく。彼女の置かれた立ち位置のみがありえないのであって、彼女の生活や日常はごくありふれている。15歳の少女の3年間の軌跡が綴られる。回想(というか、読者に対する説明のような感じ)で挿入されるそこに至るまでの軌跡も含めてひとりの女の子の生い立ちから現在までのドラマだ。3年間とは言いつつも実際は1年間のお話だ。森宮さん((3人目の父親)との暮らしの3年目がリアルタイムとして描かれてく。

彼女には3人のお父さんと、2人のお母さんがいる。どうしてそんなことになったのかは、読めばわかるのだが、そんなありえないことが彼女には起こって、それを受け入れて彼女はふつうに生きていく。しかも、ほとんどの時間は片親しかいない。

高校時代の3年間は、3人目の父親との二人暮らしだ。20歳しか年の離れていない血のつながりもない義父との二人暮らし。お互いにどう接するのがベストなのか、わからないまま、手探りで暮らしていく姿が淡々とした描写で綴られていく。時間が何度となく前後していき、そんな中で彼女のこれまでの17年間が見えてくるという図式だ。

2章構成で1章は17歳の1年間。2章は5年後の22歳、結婚に至るまで。そんなピンポイントで見せる。義父と娘のままごとのような生活は、家族はどうあるべきか、を教えてくれる。お互いに気を使いながらもそれが負担になるのではなく、お互いの生き方の指針になる。生きる上での心の支えなのだ。助け合いながら生きているというと、なんだかきれいごとのように聞こえるから、あまり上手い表現ではないけど、たったふたりの家族だからこそ、お互いが必要としていることを知る。親と子というのはこういうふうにあるべきなのかもしれない。

30過ぎの若さで、いきなり15歳の娘の父親になり、戸惑いながらも、そんな生活を楽しんでいく。彼女がいるから、毎日がある。彼女もまた、まだ若く子育てなんてしたことのない3人目の父親に気を遣うことなく接するように、努力していたのだろう。彼らは、ぎこちない、でも、どこにもない唯一の家族ゲームを楽しむ。そして、それが生きることに意味につながる。他人なのに家族、っておかしなことではなく、結婚というものがまさにそれではないか、と気づくところでこの長編小説は幕を閉じる。


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