習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『おにいちゃんのハナビ』

2010-09-29 23:39:09 | 映画
 こういう難病ものは本来あまり見たくはないタイプの映画なのだが、最近こういう地方初の映画がやけに増えていて、ちょっと気になった。知り合いが最近見た映画で一番よかったなんて言うので、時間が上手く合うからついつい見てしまったのだが、確かにこれはいい映画だ。先日見た『君が踊る、夏』同様、なんとも素朴で、丁寧な映画だ。もちろんこちらの方が、作品の出来もいい。

 主人公を演じた高良健吾がいい。ひきこもりの少年である彼が、白血病の妹(谷村美月)に引っ張られて、部屋から出て、徐々に現実世界に適応していく姿が丁寧に描かれていく。クサい映画になりそうだが、なんとか持ちこたえる。谷村美月が(白血病なのに)元気な少女を体当たりで演じていてすばらしい。彼女くらいのキャリアなら、こういう役はもう卒業したいだろうに、ルーティンワークになることなく、自然に演じている。これは簡単そうに見えて実はかなり難しいはずだ。

 当然のこととして、終盤で、妹は死んでいくが、その死を乗り越えていくことで、彼が再生していく姿が、きちんと描かれるのがいい。ただのパターンには終わらせない。人はひとりでは生きていけないから、妹の助けで人の輪の中に入った彼が、勇気を出して自分の壁を乗り越える姿はありきたりなドラマなのに説得力を持つ。

 ドラマは新潟県の片貝祭りの花火大会を背景にして描かれる。成人会のメンバーとのやりとりも、「いかにもな展開」だが、悪くはない。地方で生活している若者の姿を『悪人』とは違う地点から描き、これはこれで説得力を感じた。花火大会を企業の協賛で行うのではなく、市民団体が自分たちの力だけで成し遂げていく。それが彼らにとって生きていく支えになる。何を生き甲斐にするか、ということが大事だ。祭りが生きる力になる、という話の映画を2本も続けて見て、なんだか変に納得している自分に驚く。彼らが、他人から見たならどうでもいいことに命をかける姿は感動的だ。それが祭りであるというのもいい。忘れ去られていこうとする人と人との絆がそこには確かにある。そんなドラマを背景に持つから、この作品はただの兄妹の物語にとどまらない普遍性を持つのだろう。

 それにしても宮崎美子。今月これで3本目である。しかも、すべてヒロインのお母さん役!とても見事に、完璧にはまっているし。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『立喰師列伝』 | トップ | 『海猿 ザ・ラスト・メッセ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。