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映画・演劇のレビュー

『僕たちは世界を変えることはできない』

2011-10-12 20:56:09 | 映画
 とてもいい映画だった。こういうストレートな映画が作られるって素晴らしい。深作健太監督はアクションを中心にした娯楽映画を量産してきたが、初めてこういうシリアスな題材を手掛け、一歩も引くことなく、自分らしさを損なわず、彼にしか出来ない映画に仕立てた。前半のカンボジア行きのシーンで完全ドキュメントを貫き、何も知らない僕たち(もちろんそれは、主人公である彼ら4人でもある!)にいろんなことを見せてくれたのがいい。それは健太監督も同じだったはずだ。上から目線で作ることなく、主人公と同じ目線で観客も作り手もこの話と向き合うこと、そこがこの映画の良さだ。

 150万円でカンボジアに小学校を建てるという運動に共鳴し自分たちもやってみようと思う。150万というお金が高いか安いかはわからない。だが、大学生たちがそのお金を貯めるため必死になり、ようやく集めるまでが、描かれる。いいとか、悪いとか、どうでもいい。偽善的なボランティア活動だ、と言われてもめげない。ただ自分たちの信念を曲げることなく頑張る。そのきっかけは実際にカンボジアの行き1週間過ごした経験だ。現地の親切なガイドさんのもと、ただの観光ではなく、上から目線の視察なんかでは毛頭無く、事実と向き合う経験をする。凄まじい現実に打ちのめされる。だが、それがこの国の実情なのだ。この映画がいいのはそんな謙虚な姿勢である。何も知らないことは罪ではない。だが、知らないでぬくぬく生きて甘えているのはどうだか、と思う。自分の目で、自分の体で知るべきだ。そこからいろんなことが始まる。

 クライマックスの学校設立記念式典のシーンで、子供たちと映画の主人公である彼らが1日を過ごす時間が描かれる。ここでもドキュメンタリータッチで彼らとのふれあいが描かれる。彼らはこの映画に出演したことで役者としてではなく人間としていろんなことを学んだのではないか。大事なことはそこなのだ。これは映画であって映画ではない。作られたドラマではなく、本当にあったことを彼らが追体験することを通して、みんなでこの問題を考えることが目的なのだ。戦争のない平和な世界を作ろう、なんて言う。もちろんそこには嘘はないだろう。だが、現実に今紛争やいろんなことが世界では起こっている。だから、その事実に目を向けることが必要なのだ。

 この映画が描くものはそこだ。ちっぽけな自分たちに世界を変えることは出来ない。だが、彼らはカンボジアに学校を建てた。その事実は消えない。そして、そこの運営にも手をさしのべた。それは小さな事なのかもしれないが、この「何かをした」という事実が大事なのである。そのことをこの映画は教えてくれる。難しいことなんかわからない。だが、そこに困っている人がいるのなら、手をさしのべよう。手助けは必要だ。そこから全てが始まる。


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