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映画・演劇のレビュー

『中国の植物学者の娘たち』

2007-12-20 23:31:44 | 映画
 この冬一番の期待作だったんだが、なんだか期待はずれの作品。主人公2人の気持ちが伝わってこない。この植物園で出会い、お互いに心惹かれていく2人の女たち。同性愛がタブーとされていた時代。それだけで死刑にされてしまうなんてことが、ついこの間の中国では充分に現実としてあったのだろうが、これはその事実を告発するための映画ではない。

 ダイ・シージェ監督の前作『小さな中国のお針子』があんなにも感動的だったのは、文革の頃とか、下放先の農村という舞台設定もさることながら、2人の男が、ひとりの少女を愛するというドラマに説得力があったことがまず一番大事だ。美しい自然、何も知らない少女に文学を教えること。彼女が本を読むことの魅力に取り付かれていくなか、男たちもまた彼女の魅力の虜になる。そんな3人の愛しい時間がしっかり描かれてあった。

 今回の失敗の原因は、そんな主人公たちの熱い想まるで伝わってこなかったことにある。とても丁寧に作られた映画なのにどうしてこんなふうになったのだろうか。

 どきどきするような切ない想いがなぜ伝わってこなかったのだろうか。植物園に研修でやって来た女。彼女はロシア人と中国人のハーフで、孤児院育ちの天涯孤独な女だ。ひとりぼっちで偏屈な父親の面倒を見てきた女は彼女を好きになる。ひとりぼっちの2人は閉ざされたこの場所で恋に落ちる。このストーリーには何の問題もない。美しい自然、風景も魅力的だ。なのにいつまで経ってもお話にのめり込めない。

 とてもシンプルな話だ。この世界が2人だけの世界であったなら、彼女たちは幸せになれただろう。しかし、そうはいかないのが、2人を囲む現実だ。女の兄、父親が2人を引き裂く。ダイ監督はこの悲恋をただ静かに見守る。ため息が出るほどに美しい映画だ。だからこそ、ほんの少しの匙加減で傑作になったかもしれないのが、残念でならない。

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