また食べ物屋の話かぁと自分で選んだくせに、思う。だけど、今回も正解だった。これはとてもいい小説だ。丘の上にある小さな洋食屋さん。若い二代目シェフとホール担当の義姉、そしてアルバイトの青年。たった3人のスタッフがおもてなしする。開店前のプロローグの後、4人のお客さんの話が描かれる。
僕は丘の上が好きだから、職場も丘の上の学校を選んだ。(最初は街中の学校ばかりだったけど20年経ってようやく希望した学校に移れた)今は仕事は退いたけど、趣味でまたしても丘の上にある学校(別の学校だけど)で教えている。だからこの小説のさりげない料理を出す洋食屋オリオンも好きだと思う。一度行ってみたい。(まぁこれは小説ですから無理だけど)
4話からなる短編連作。最初のエピソードの主人公は高校を卒業して東京の大学に進学する女の子、次も同じように卒業がテーマで、キャバ嬢を卒業する女性の話。そんな主人公たちの今をさらりと描き、彼女たちがここオリオンで過ごす心地よい時間を横に配す。このあっさりしたタッチがいい。あくまでもお客さんの話にこの店の美味しい料理が寄り添う。
後半戦も胸に沁みる話が続く。幼い頃の記憶と今を描く2作品。3話目は美術部で一緒だったふたりの再会。最後は朝の小学校の花壇、飼育小屋での語らいから20年後のクラスメイトとの再会。どちらも長い時間を経て再び出会うふたりを描く。再会の場所はもちろんオリオンである。ここが彼らにとって聖域になる。
4つの話の後に短いふたつのエピソードが入る。ここで暮らす猫の独白。エピローグの閉店前のお話。とても気持ちのいい作品だった。