青春小説で大学生の男の子と女の子の恋愛小説なのだけど、この小説のつつましさが好きだ。これはキラキラした小説ではない。どこにでもある地味な恋バナで、今時こんな恋愛をする大学生がいるのか、と思うかもしれない。だけど、ほんとうはこんなふうに憶病で、誠実な恋はある。
少しずつ距離を詰めていくけど、おどおどしながらで、なかなか近づけない。だけど、それは全くもどかしくはない。これでいいのだ、と思う。映画や小説のように僕たちは恋をしない。もっとぶきっちょで、恥ずかしいくらいに誠実。
高校時代に先生から受けたDVによって学校に行けなくなった女の子が、大学に入って、新しいスタートを切ろうとする。そこで出会った写真部の先輩を好きになる。お互いに好意を抱いているけど、なかなか上手くはいかない。もどかしい。でも、それでいい。いろんなことはそう簡単ではないからだ。ゆっくりゆっくりと時間をかけて順を追って少しずつ、進んでいく。そんな彼らを見守りながら、人と人とが出会い、心を通い合わせるのはきっとこういうことなのだな、と思う。