自宅から鹿島アントラーズの本拠地まで歩いて旅する6日間のお話。小説家の叔父さんとサッカー大好き姪っ子(小学6年)がコロナ禍の2020年3月、ふたりでサッカーボールを蹴りながら(旅の途上でリフティング500回を目指す)鹿島を目指す。彼女は学校では男の子にも負けない。中学は女子サッカー部のある私学に入った筋金入りのサッカー少女だ。
旅の途中で同じように鹿島を目指すみどりさんと出会い、共に旅する。3日目のことだ。4日目は雨で足止めを食らう。そのとき彼女がいなくなる。ふたりの旅の邪魔をしないため、というが。彼女の抱える問題も含めて、このささやかな旅は3人の人生すら変えていく。「この旅のおかげでわかったの、本当に大切なことを見つけて、それに自分を合わせて生きていくのって、すっごく楽しい」。そのことばが胸に沁みる。本当に大切なことって何だ? ひとりひとりの胸にそれはあるのか。僕にはそれがあるか? そんなことを考えさせられる。自分の胸に手を当てる。いい小説だった。
と、思って本を閉じる瞬間のことだ。いきなりのラスト。その衝撃にことばを失う。そんな展開が最後の1ページでさりげなく書かれる。「えっ?」と思い、涙があふれる。そんな理不尽なことが人生にはあるのだ。これは小説のなかのお話なのだと、割り切れない。それくらいに衝撃的な展開だった。
「大切なことに生きるのを合わせてみるよ、私も」。そのことばは、僕たちのことばでもある。彼らが自分の人生と向き合い、大切なものをしっかり胸に抱え、生きようとする姿が感動的だ。ジーコ(像)の前で内定辞退のメールをしたためるみどりさんの決意。亜美(姪っ子、の名前)の姿を通して彼女が未来に向けて一歩踏み出していくこの旅がこの4月から新しいスタートを切ることになった自分の胸にも染み入る。それだけにショックは大きい。人はいきなり死ぬこともある。何が起こるかわからない。本当に大切なことを見つけること。それができないうちは先には進めない。