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映画・演劇のレビュー

『恋の罪』

2011-11-14 22:36:23 | 映画
今年2月に公開された『冷たい熱帯魚』は凄い映画だった。その時のはもう既に、この新作は完成していて、宣伝していた。あの映画を見た直後なので、一刻も早く見せろ、と思ったのに、なんとそれから10ヶ月である。いくらなんでもこれは長すぎる。公開がここまで遅くなったのは僕たちの与り知らぬことだが、恐るべし園子温。さらには次の新作である『ヒミズ』も待機中だ。

 今回は18禁である。それは性描写だけではなく、その暴力的な残酷描写も含めてのレイティングだろうか。過激な映画なら俺に任せろ! の園子温である。期待は高まる。ということで、公開初日に見た。

 円山町のラブホテル街で起きた猟奇殺人から始まる。相変わらず刺激的で衝撃的な内容だ。水野美紀演じる刑事が現場を訪れる。バラバラにされた死体はマネキンと合体して2体にされてある。だが、肝心の頭部はない。この冒頭部(その前にいきなりの水野美紀のヘアーもあらわなセックスシーンがある! これからして驚きだが)から、最初のエピソードへ、一気に突入していく。事件の捜査と並行して、2人の女が描かれる。小説家の貞淑な妻。有名大学の助教授である女。彼女たちの話が語られる。そこに主人公である水野美紀の家庭描写、性癖も含めて、その3つの家庭、3人の女たちのドラマとして、この事件が語られていく。

 だが、だんだんこれはないよな、という気分にさせられる。リアリティーがなさすぎる。扇情的な内容を露骨な性描写で描くただのゲテモノ映画になる。園子温は時々こういう感じになる。バランス感覚を持たない。イケイケで描くから、時としてこういくことになるのだ。だいたい警察の捜査も『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』並に杜撰だ。これだけの事件なのにしょぼすぎる。しかも、犯行現場となった廃墟と化したアパートも、あれだけ自由にみんなが使える場所であるというのは、なんだかなぁ、である。犯行後も放置されたまま、というのも、いい加減すぎる。

 これでは、まるで安物のロマンポルノでも見ているような感じだ。しかも、上映時間は2時間24分もあるし。ここまで長くして、主人公の内面には一切迫れてない。ラストでゴミ収集車を追いかけるエピソードをわざわざ視覚的に見せた意味はどこにあるのか。劇中で語られるそのエピソードだけで、充分インパクトはあった。

 平和な家庭だけでは満足できない女の性の問題なんて、『団地妻 昼下がりの情事』以来延々と描かれてきた日活ロマンポルノの定番である。それって、今回この映画が日活製作であるのも影響しているのか。園子温はロマンポルノがしたかったのだろうか。

 富樫真の大学助教授の描写も酷すぎた。あんな授業に田村隆一の詩『帰途』を使って、それが全体の結構大事な要素を担うなんて、なんか恥ずかしい。性の地獄ですか? それはない。『冷たい熱帯魚』に続く神楽坂恵も今回は彼女の下品さが、まるで意味をなさない。有名な小説家の妻には見えないし。この2人の描写がまるでダメだから、いくら水野美紀が頑張っても映画は弾まない。衝撃の失敗作である。残念だ。


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