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映画・演劇のレビュー

『エスケイプ・フロム・トゥモロー』

2014-07-22 21:13:45 | 映画
 モノクロ90分の映画だ。今時、めずらしい。しかも、なんの予告もなく突然、公開された(って感じ)。それも、メジャーであるTOHOシネマズでかなりの規模で上映されているし。ふつうこういうタイプの映画はミニシアターでひっそりと単館公開されるのが常だ。とてもじゃないが、地味すぎてお客が入りそうにない。なのに、である。どういう経緯からこういうことになったのか、不思議だ。そして、この映画自身もなんとも不思議な作品である。

 最初、劇場で予告編を見たときから、これはいったい何なのか、と、いぶかしんだ。得体のしれないものに思えた。これが映画だとは、思えない感じ。黒いディズニーランドを描くダークファンタジーなのだが、こんな映画の撮影を、ランド側が許可するわけもない。「ゲリラ撮影を敢行」とチラシにはあるが、隠し撮りでこれだけの規模の撮影が可能なのか。よくわからない。内容もそうなのだが、この映画の存在自身が謎だらけなのだ。

 それにしても、なぜこんなふうに公開されたのかが、気になる。ディズニーランドを舞台にしているから、集客できると判断したのか。でも、これは夢の世界の話ではない。夢は夢でもこれは悪夢だ。わざわざモノクロで描かれるディズニーランドは、主人公にとって恐ろしい場所になる。家族サービスのためにランドにやってきた。妻とふたりの幼い子供たち。オフィシャルホテルに泊まった翌朝。会社から首切りの宣言を電話で受けることになる。そのことを妻には言えない。子供たちと遊んでいるような気分ではない、だが、予定を変えるわけにはいかない。

 悪夢は突然に始まる。首切りを妻には隠したまま、休暇を始める。だから彼の心は不安定だ。ランドに向かう電車の中で見た2人のフランス娘にいざなわれるようにして、彼は不思議の国に迷い込む。どこまでが現実でどこからが妄想なのかも定かではない。すべてが白日夢のようにも思える。明るい陽ざしの中、夢の世界はそこにある。だが、モノクロで描かれるそのハイキーな映像はとても現実とは思えない。特別な仕掛けを映像に施すのではない。ただそのモノクロだけで、そこはねじれた異空間になる。もともとここは異空間なのに、それが別のものになっていく。男の悪夢はとどまることを知らない。子供を連れたまま2人の女たちを追いかける。故意に妻と別れ行動する。ばらばらになった家族が再会することはなかなかかなわない。やがてそれが現実なのか、妄想でしかないのかも、定かではないまま、彼は捕えられて、別次元に連れて行かれる。

 まるで、何の説明もなく、突然襲いかかる悪夢。ささやかなこと(きれいな女の子を目で追う)から、壮大なこと(宇宙人に拉致される)にまで、エスカレートするのではなく、雑然とそれらが投げ出されるように描かれる。この現実と地続きで、すべてがある。昔、デビット・リンチの『イレイザーヘッド』を初めて見たときのような驚きがここにはある。それが日常の延長にひっそりとある。この不意打ちのような衝撃に眩暈がする。



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