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映画・演劇のレビュー

『バンコック・デンジャラス』

2009-12-29 22:37:30 | 映画
 オキサイド・パンとダニー・パンがタッグを組んでハリウッドに進出した記念すべき映画。パン兄弟はそれぞれ独立して行動することもあるが、基本的には2人で映画を作っている。数ある兄弟監督のなかで、単独監督もこなすことでは異彩を放つ存在だ。これは彼らの出世作『レイン』のセルフ・リメイクである。ハリウッドは外国人監督によくこのやり方を課す。安全圏で勝負させたいのだろう。というか、自分たちが安心して任せられるからだろう。母国で成功した作品をアメリカを舞台にしてハリウッドの役者を使い、もちろん英語で作る。台本に関しては信用ができる題材であることが大きい。

 これまでも数ある監督がこの方法でハリウッドデビューを飾っている。我が国の中田秀夫監督(『リング』)も清水崇監督(『呪怨』)もそうだ。だが、パン兄弟による本作は、オリジナルからかなり離れたものになっている。この映画は寸分違わぬ作品を作ったハネケ(『ファニーゲーム』)とは正反対を行く。理由は、主人公をしゃべれない男に設定したら、ニコラス・ケイジのイメージに反するからか。というか、ただ主人公がしゃべらないではハリウッド映画にならないからだろう。

 この基本設定をいじっただけで、映画はまるで印象の異なる作品になった。もちろんこの設定変更は作品自体の変更につながる。だいたい映画を見始めてしばらくするまで『レイン』のリメイクであることにすら気がつかなかったくらいだ。

 だいたい主人公の殺し屋がアメリカ人であることと、彼が仕事でバンコクにやってくるという出だしからして、オリジナルとは違う。もともとこの話は特別なお話ではない。言葉をなくした殺し屋、という設定が特別な部分なのだから、この映画からその設定を取り除いたなら、別にこの映画でなくてもいいことになる。なんだかおかしな話だ。こんなことなら、完全オリジナルで充分だったのではないか。まぁ見たところ、イメージ的にはほぼ完全オリジナルなのだが。

 どうってことない話だ。パン兄弟にいつものホラーをさせなかったのが、取り柄か。彼らのホラーはもう飽きた。つまらないことはないのだが、スタイリッシュなだけで、中身がない。まぁ、そんなホラーは山のようにあるが、ことさらそんなものを取り上げてもしかたない。

 勝手知ったるバンコックである。ロケーションは素晴らしいし、当然バンコックの観光映画にもなっている。ありきたりな風景ではなく、とびっきりな場所を抑えてあるのだろう。だが、パン兄弟にバンコック観光案内なんかさせるため監督依頼したわけではあるまい。では、何がしたかったのか。正直言うとあまりよくわからない。彼らの才能ってなんだ? 職人として上手いということ以上のものを感じない。

 今回もやはり同じだ。つまらないとは言わないが、殊更これを見てどうとも思わない。陳腐なアクションでしかない。非情の殺し屋が、弟子に情けをかけたり、薬屋の姉ちゃんと恋をしたり、なんだかおかしいやろ、それって。しかも、最後の仕事で失敗して(準備不足のような気がする)必死の追跡をするのだが、あれはない。あんなスーパーチェイスができるのなら、もっとちゃんと最初から仕事をして欲しかった。しかも、あんな派手なことして後の始末は大丈夫なのか、と心配になる。

 この文章を書いた後でちょっと調べたらパン兄弟は既に『ゴースト・ハウス』でハリウッドデビュー済みでした。知らなかったのは、僕だけか。しかも、タイトル通りホラーだし。まぁ、現実なんかそんなものか。いつものことだが、思い付きと自分の記憶だけでこのブログ書いているなぁ、と感心した。

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